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August 29, 2006

『昆虫 脅威の微小脳』

Insects

『昆虫 脅威の微少脳』水波誠、中公新書

 中公新書は三木成夫『胎児の世界』、本川達雄『ゾウの時間、ネズミの時間』など科学モノのラインアップが素晴らしいんですが、そこにもう一冊が加わわりました。著者である水波誠先生にとって、初めてとなる一般読者向けの本ということで、かなり生硬い部分もあるのですが、最先端の情報に興奮させてくれます。

 地球にはあと5億年ぐらいは生物圏が存在できて、ざっくり云ってしまえば植物の星だと思うのですが(『松井教授の東大駒場講義録』)、その植物の最大のパートナーは昆虫。生物の繁殖戦略には、体のサイズを小さくして、個体数を多くして、不安定な環境に対して短期間に多くの変異を生み出すことで対応する節足動物のr戦略と、体と脳のサイズを大きくすることで学習によって個体行動を変化させることで対応する脊椎動物のK戦略があるというんです(p.269-、ピアンカ理論)が、そのr戦略の王者が昆虫。先カンブリア紀の初期に、新口動物と旧口動物が分岐し、現在、新口動物の頂点にはヒトが立ち、旧口動物の頂点には昆虫が立っている、と。

 ならば、昆虫と脊椎動物の共通の祖先も想定できるわけで、その想像図も載っているんですが、インナーワールドを探求すれば、遺伝子情報としても、それは確実だといえるそうでして「ショウジョウバエとマウスの脳の形成に関わる少なくとも六つの共通の遺伝子が見つけられて」(p.28)いるほか、「ミツバチとヒトが同じ錯視を示」(p.69)したり、「ほ乳類でも昆虫でもアミン作動性ニューロンが学習において報酬や罰の情報を伝えるという発見は、脊椎動物と無脊椎動物の脳のデザインの共通性をまた一つ明らかにしたもの」(p.219)であるなど、様々な事例が紹介されています。

 このほか、トンボが姿勢制御に使っている3つの単眼(複眼以外の頭部中央にある)システムが、ラジコン飛行機に応用されているとか(p.81)、地球圏では昼と夜で明るさが100万倍も違うので、昆虫もほ乳類も動物は「物体の特徴を視覚的に捉えるための基礎として、光強度やその変化量ではなくて光強度変化率(明暗コントラスト)を用いる」(p.89)とか、ヒトに応用できるかどうかは別としてNO-サイクリックとGMPシグナル伝達系の活性化剤を投与すると一回の学習訓練で長期記憶が形成される(p.211)など驚きの情報が満載です。

 ぼくの不出来な文系脳では、うまく紹介できなかったかもしれませんが(微小脳の話とか飛ばしてしまった…)、今年読んだ新刊書の中では一番、面白かったです。

 ぜひ。

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