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June 18, 2006

『精神現象学』読書日記#6

[A.意識][II.知覚]

思わず、サッカーに関する書き込みでも一部を引用してしまいましたが、出だしの《目の前のものをただ受けとるだけの確信が真理をわがものにできないのは、その真理が一般的なものであるのに、意識は「このもの」をとらえようとするからである。これにたいして、知覚は、自分にたいしてあるものを一般的なものとしてとらえる。一般性がその原理となっているから、そこにただちに区別されてあらわれる二つの要素-自我と対象-も一般的なものである》(p.78)は好きな言葉でもあり、[II.知覚]の内容をよくあらわしていると思います。

 ヘーゲルは立体的にものを見る重要性について語っていくのですが、その前に、お得意の止揚についてひとくさり説明しています。《「アウフヘーベン(Aufheven)というドイツ語は否定の作用の真理をなす二重の意味を-つまり「否定する」とともに「保存する」という意味を-見事に表現する」》と。

 そして、例えば塩を認識する過程について81頁以降、顕微鏡的に考察していくのですが、《(α)多くの性質がたがいに無関係に受動的に「…も」というかたちで一般的に重ねあわされる場面-物質ないし素材が問題となる場面(β)否定の力によって単一性が確保される場面。いいかえれば、対立する性質を排除することによって、一つの物がなりたつ場面。(γ)上の二つを関係づけるところに生じる、物が多くの性質をもつという場面。ここでは、否定の力は、ばらばらの性質をそのまま受けいれるという方向と、内部でさまざまな性質を展開していく方向との二方向に働き、単一な点として安定した存在となった媒体が、外にむかってさまざまな性質の光を放射する》という三点が区別されなければならない、とします。

 ヘーゲルの考え方の特徴というのは、この後、塩を塩として知覚する場合に、いろんな要素を持ち合わせつつ、他と区別され、しかも自己同一を保つものとして知覚するのだ、ということなんですが、とにかく、ここでも重要なのが否定の力。

 塩は白く、しょっぱく、重さももっているけど、それだけでは塩とはいえず、甘くなく、三角形でもないという他の性質と対立し、他を排除する特定の性質として知覚されることが、重要だ、というわけです。

 《物はまさしく他と対立することによって一つのものなのである》(p.85)

 これなんか、なんつうか、ヨーロッパの精神のあり方のマニフェストのような気がしますね。もちろん直後に《物は一つのものであることによって他を排除するのではなく、特定の性質をもつことによって他を排除する》なんてこともフォローしているというか、やや言い訳めいたことも書いているのですが、最初のモチベーションというかドライブする原動力は《他と対立することによって一つのもの》になるという考え方ではないかと思います。

 この後は、浄土系の往相還相のような話になっていくんです。《知覚とはただ単純になにかをとらえることではなく、なにかをとらえつつ、同時に、心理の外に出て自分自身へと還っていく運動である》(p.84)とか。単なる感想で、もしかしたら、まったくトンチンカンなことを云っているかもしれませんが、個人的には、認識する過程のところで引用した《単一な点として安定した存在となった媒体が、外にむかってさまざまな性質の光を放射する》というところに「光」という言葉が使われているので、「無明長夜の闇を破し衆生の志願をみてたまふ光明智相」なんてことも思い出しました。

 ヘーゲルは、『精神現象学』でもそうですが、後の『歴史哲学講義』でもペルシアの宗教にふれつつ、ゾロアスター教の「光」の概念を人類史上の精神のジャンプとして高く評価します。個人的には、アフリカ的段階、アジア的段階に加えて、ペルシア的段階というのも想定できたら面白いな、と思うのですが、この中央アジアで成立した終末の段階で降り注がれる救いとしての「光」という考え方が、東に行ったドンツキでは浄土系の思想となり、地中海にぶつかるとユダヤ・キリスト教の「人の子」になったのではないか、なんて吉本さんが昔語っていたことも思い出しました。もっとも、トンチンカンなことを云っているという気分もするのですが、間違えたらお許しを。

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