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April 20, 2006

『王になろうとした男』

John_huston

『王になろうとした男』ジョン ヒューストン、宮本高晴(訳)、清流出版

 武勇伝の固まりのような男。それがジョン・ヒューストンだ。その自伝が刊行後20年たって翻訳されたのだから読まずにはいられない。

 彼は名優ウォルター・ヒューストンの子として生まれ、脚本から映画界に入り、ハンフリー・ボガートを一躍トップスターの座につけた『マルタの鷹』で監督デビュー。戦時中は軍隊に入隊し、キスカ島、アフリカ戦線、イタリア戦線などを転戦、最前線で記録映画をつくる。ハリウッドに復帰したと思ったら、生涯最高の『黄金』ではやくも神格化される存在に。ボガートとは『キー・ラーゴ』でも当たりを取るが、ワーナー・ブラザースを去り、今もカルト的な人気を誇る『勇者の赤いバッジ』を撮影。しかし全く当たらなかったので、またもボガートと組んで『アフリカの女王』を撮るとこれが超大ヒット。

 撮影中はサファリで狩猟に夢中となり、その映画作り全体をクリント・イーストウッドが『ホワイトハンター ブラックハート 』でオマージュするし、キャサリン・ヘップバーンも『「アフリカの女王」と私』という本を出すほどの伝説の映画となる。

 しかしその後は『白鯨』『黒船』『荒馬と女』『天地創造』と話題作は手がけるがパッとしない時代が続く。それでも『ロイ・ビーン』『王になろうとした男』『アニー』と職人的な技術は保ち続け、最後に念願だったジョイス原作の『The DEAD ダブリン市民より』を撮ってメガホンを置く。

 ジョン・ヒューストン自身がわざわざ一章をさいて語っているように、彼は特定のスタイルを持たない、という希有な映画監督だ。ハリウッドで豪華な生活を楽しみ、何人もの妻と結婚して、慰謝料で財産を失う。しかし、若い頃にボクシングで鍛えた体は、馬術、釣り、狩猟などで維持し続け、撮影所では「王」として振る舞う。生涯、スポーティング・ライフの合間に執筆したヘミングウェイようなライフスタイルというか、理想の生涯を送った男ではないか。

 もう、とにかく子どもの頃からダイナマイトを爆発させたり、映画界に入ってもエロール・フリンと殴り合いのケンカをしたり、やりたい放題。監督になってからも、メキシコの撮影で懐いた孤児をそのまま養子にして育てたり、動物アレルギーの妻がいるのに動物園のような別荘をつくったり、パーティでもらったチンパンジーをそのまま連れて帰ったりと、なにも考えずにやりたい放題。

 そんな中で、今ではPTSDの問題なんだろうけど「精神障害を被った兵士たちは闇に葬られるべきではなく精神医学の治療によって救わなければならないという主張を主題」とした『光あれ』を撮り(p.139)、その後、『フロイト』でフロイトの生涯と学説を知的なサスペンス・ストーリーとして描いたり(p.347)、最後の最後になって、20代から本当に撮りたかったジョイスの作品を監督したりするように持続する意志も持ちあわせている。

 ユージン・オニール、ロバート・キャパ、ヘミングウェイ、サルトル、テネシー・ウィリアムズと交友関係も華麗すぎ。ブラッドベリなんか小僧っ子扱いされていたという(ブラッドベリがヒューストンにアイルランドで虐められるという映画もあったハズだけど…ググッてもわからない…どなたかご存じありませんか?)。キャサリン・ヘップバーンは『「アフリカの女王」と私』文春文庫の中で、「ジョンはごきげん。この人、めげるってことがないんじゃないかしら」(p.87)と書いているけど、実は、個人的にあこがれる数少ない人なのでもあります。もちろん、彼みたいに自由に生きることはできなかったろうけど。ああ、なんか映画の本を読んでいるとココロが休まるなぁ…。

 好きな作品は順に『黄金』『アフリカの女王』『マルタの鷹』『勇者の赤いバッジ』『白い砂』『ロイ・ビーン』。

 もっと、もっと評価されていい監督だと思う。特に日本では。トリュフォーの「ヒューストンの最高の映画はホークスの最低の映画より劣る」なんてわかりやすい批評が悪影響をおよぼしているんじゃないのか。ぼくは「ホークスの方が好きだけど、ヒューストンもホークス並に凄い監督だ」と思う。『光あれ』は特に観てみたい。

ラス・カレタスにて
両親の結婚、そして別れ
チャップリン、ボクシング、絵画
ユージン・オニールとの出会い
世界最低の新聞記者
ロンドンどん底生活
『マルタの鷹』で監督デビュー
エロール・フリンとの一騎討ち
『サン・ピエトロの戦い』
やけっぱちの三度めの結婚
赤狩りの時代
『黄金』ができるまで
『キー・ラーゴ』でワーナーを去る
ヘミングウェイの肖像
呪われたカルト映画『勇者の赤いバッジ』
父ウォルター・ヒューストンの死
『アフリカの女王』とジェイムズ・エイジー
『赤い風車』の色彩デザイン
アイルランドのキツネ狩り
セント・クレランス狂
アイルランド時代の終わり
『悪魔をやっつけろ』とボギーの死
『白鯨』から『黒船』で
デイヴィッド・O・セルズニック
『自由の大地』のアフリカロケ
『荒馬と女』のマリリン・モンロー
『フロイド』とサルトル、モンゴメリー・クリフト
『イグアナの夜』とテネシー・ウィリアムズ
私の大好きな動物たち
最大の大作『天地創造』撮影秘話
カーソン・マッカラーズの思い出
観客に見放された『ファット・シティ』
『風の向こう側』のオーソン・ウェルズ
念願の企画『王になろうとした男』
私はスタイルを持った映画監督ではない
低予算の冒険『賢い血』
ふたたびラス・カレタスにて

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