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February 19, 2006

『衣食足りて』

ishoku_tarite_yamaguchi

『衣食足りて』山口瞳、河出書房新社

 河出書房新社による山口瞳さんの単行本未収録エッセイ集の第6弾?

 さすがに、ここまでくると「なるほど、山口さんが本に収めなかったわけだ」とわかるような作品が多い。なんつうか、やっつけ仕事というか。ウィスキーの飲み方なんていう20頁を超える比較的長文のエッセイにしても、資料を元に書き殴ったという感じも受ける。それと野球に関する話題がやはり多かった。

 でもね、やっぱり山口さんの文章はいいな、と思うところはある。例えばこんなところ。

「仕事の面で評価できる人と交際するようになると、私はその人に肩入れしたり、いれあげたり、ヒイキしにしたりする。しかし、交際が深まるにつれて、相手が狎れてきて、それが度を越すようになると、急に冷たくなって、あっさりと捨てるようになる。これがイケナイと言われる」「私は、男の交際は仕事に対する評価だけでいいと思っているのであるが」(『どこまで』pp.137-)。

 「私は、いま、遠くへ飛ばすことでは自信があったと書いたが、野球を本気になっている人たちは、ジャスト・ミートを心がけるものであって、そのときすでに私の野球は嘘になっていたのである。私は、真中の高い球でも外角球でも、なんでも左翼方向へ引っ張った。そうすると、野球のわからない見物は驚くのである。こんな打ち方をしていたのは、私の気持ちが野球を離れていた証拠である」「(麻布中学の野球部に入らなかった訳は)そのころ、私は向学心に燃えていた。もっと本を読みたいと思っていた。ただし、向学心があるということと、実際に勉強するということは話は別である。私の場合は『向学心に燃えているナマケモノ』であろうか。気持ちだけがそうなっていた。とても野球どころではないかった」(『野球の話』p.141-)

 「私は、礼儀作法というものは、この虚礼のうえでどれだけのイキが通わせられるかという、ひとつの真剣勝負であるような気がしている。虚礼のうえに、つまり、虚しさのうえに、どれだけの人間らしさが乗せられるかという営為だと思っている」(『嘘』p.197)

 どれも、心に染みてくるような内容だし、文章の呼吸が整っているところはさすがとしかいいようがない。

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