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January 29, 2006

『ファルージャ 栄光なき戦闘』

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『ファルージャ 栄光なき戦闘 アメリカ軍兵士たちの20カ月』ビング・ウェスト(著), 竹熊誠 (訳)、ハヤカワ・ノンフィクション

 2004年に2回にわたって行われた米軍によるファルージャ攻撃を、まるで『ブラックホークダウン』のような筆致で描いたノンフィクション。戦闘場面の描写はすさまじい。

 著者は「ジョージタウン大学とプリンストン大学を卒業後、海兵隊に入隊し歩兵としてベトナム戦争を経験する。その後、レーガン政権下で国際安全保障問題の国防次官補を務め」たという人物。海兵隊はフィミリーだからなのか、多くの兵士、将軍たちが安心してインタビューに応じたのだろう、ということがわかる。

 ファルージャでは04年3月末に米軍協力者4人が武装勢力によって殺され、遺体が損壊され、その回りで住民たちが騒ぐという事件が起こった。直後にブッシュ大統領はファルージャの攻撃を指示。しかし、問題は28万人の市民が住む都市を攻撃して、どんな戦略目標を獲得するのか、というものがなかったこと。ファルージャを制御不能のままにして放置することはできなかったにせよ「ワシントンには、ファルージャの戦略計画と呼べるようなものはなかった」(p.129)という。

 米軍の海兵隊にとって、都市の攻防戦はベトナム戦争におけるフエ以来のものとなる。道の両側の民家からAKを持った男が現れては海兵隊に銃弾をあびせかけるというのは似たような状況かもしれないが、麻薬でラリッてフラフラと何も持たずに出てきた男が一人一殺で自爆攻撃するというのはファルージャで初めて経験したこと。

 自爆までするのは確信犯的なジハーディストだったが、多くの男たちは戦闘が始まると「自宅に飛び込むとAK銃を引っ堤げて表に出てきて、近所の一団と一緒になるのだつた。軽い皮肉を込めて、海兵隊員はこういった連中をミニットマン(アメリカ独立戦争時の緊急召集兵)と呼んだ」(p.161)という。人数は多いもの、重火器を持たず、さして訓練も受けていない抵抗勢力に対する掃討戦は順調に進んだ。しかし、このファルージャ作戦と同時にスンニトライアングのラマディでも武装勢力が実権を握るという事態となったほか、南部のシーア派勢力でもサドルに率いられた民兵組織が活動を活発化させ、泥沼化の様相を呈する。

 こうした事態をさらに混乱されたのがアルジャジーラの報道。どこで撮られたのか、ということが明らかにされていない市民の被害、特に女性や子供が被害を受けたと主張するビデオは、急速にアメリカの立場を悪化させた。しかも、同時に、収容所における捕虜虐待事件なども表面化。臨時政権からの離脱を表明するイラク人指導者も現れるなどブッシュ政権は窮地に追い込まれ、占領作戦完了まであと数日という段階において、ファルージャの作戦は中断される。

 ここで出てきた解決策が、旧フセイン政権の軍事指導者に、一度、ファルージャの治安をまかせてみようか、という米軍のアビザイド司令官の案。これによって旧イラク軍のサレー少将が担ぎ出させるが、これを米軍に対する勝利と位置づけたイラクの武装勢力はファルージャにおける権力を手放そうとせず、結局、イラク軍による治安の回復はまったく望み薄となっただけではなく、ザルカウィなどが次々と事件を起す拠点となってしまう。

 ここに至り、米軍は再びファルージャの占領を決断。11月には多くの犠牲者を出しながらも武装勢力を掃討する、という話が、延々541頁にわたって続く。

 町の状況は2枚の航空写真でしかわからないので、米軍がどういうルートを通って戦ったのかとか、非常にわかりにくいのが残念。

 戦闘描写のすさまじさは『ブラックホークダウン』を思わせる。これは本当にすごい。今の米軍はエミネムの曲を大音量でかけながら突撃するのか…みたいな。とてもじゃないけどグルメ情報と共存しているエントリーでは引用できない。

どこまで信頼していいのかわからないが、カネがもうからるから導師となり、モスクで若者たちにジハードを説くみたいなジャナビみたいな宗教指導者や、我々は善良な市民であり武装勢力など町にはいないから米軍は出て行けとばかり繰り返す部族長を描く「二つの顔を持つ部族長と導師たち」は、責任感のないイラクの指導者層と重なる。

あと、中東において戦闘とは自分の勇気を示すことであって、集団としての勝利しか目指さない米軍とはまったく違うという話も面白かった(だからイラク軍は弱小クウェート軍相手以外にはほとんど戦争に勝っていないし、歴史的にも戦争には弱い。つかアングロサクソンは強すぎ…)。

 ファルージャ作戦について武官と文官のどちらかに決定を下す権限があるのかあいまいだったと総括し、任務に明確さが欠けていたと批判する最後の総括はフェアだ(pp.512-)。

 NO TRUE GLORYという原題がすべてを表わしてると思う。原本も購入することにした。あと、文春文庫から出ているベトナム戦争を描いた『猟犬たちの山脈』上下も。

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