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December 18, 2005

『物質をめぐる冒険』

bushoitsu_bouken

『物質をめぐる冒険』竹内薫、NHKブックス

 文系の人間でも時々は「物質の根源とは何だろーか」と考えることがある。そして、ない理系アタマを絞って、科学関係の本を思い出したように読んでみる。そうした本の95%は、読み手の問題なのか、書き手の問題なのかわからないが、期待を裏切られる。しかし、残りの5%はすごい。例えばファインマン博士の『物理法則はいかにして発見されたか』とか、ホーキング博士の『宇宙を語る』シリーズとか。ファインマン博士にしてもホーキング博士にしてもウルトラ・ビッグネームなわけで、そんな大先生が書いた本ならありがたく読まなければ…という心理が働いていることはいなめないが、そうした人でない著者が書いたこの手の本で、ここまでよかったのは久々かも。

 著者は文1から理1に理転した経歴を持つという。しかも、哲学で大森荘蔵先生に教えを受けて理1に転じたというのでは、まるで中島義道先生と同じ。ただし、義道先生がドロップアウト寸前までいったのに対して、竹内薫さんはミステリー作家「湯川薫」として小説も発表するなど、余裕ある仕事っぷりをみせている。

 というヨタ話はおいておいて、微分積分も忘れかけているような人間にも、ニュートンとマクスウェルの古典物理学素粒子、相対論と量子論のモダン物理学、そして現在のポストモダンとも呼べるような物理学の課題を、本当によく整理してもらっている感じ。この著者の本は『「ファインマン物理学」を読む』で撃沈したけど、この本では「F(力)=m(質量)×a(加速度)」という運動の法則の式の意味を「記号はそれぞれF=(Force)、m=(mass)、a=(acceleration)という英語の頭文字からきている」とひと言添えて、わかりやすくしてくれている。あと、例えば光速はマッハ90万とか。

 光子がベクトルとの性質を持っているということを、直角に遮った2枚の偏光フィルターの後ろに3枚目の偏光フィルターを45度の角度で入れると、2枚目の後ろで遮られていた、光が復活するということで、後のスピンの話につなげていくところや、これまで、よくわからなかった(頭が悪くて申し訳ありません)量子トランスポーティションも比較的わかりやすく説明してくれていた。

 ここらかへんから、哲学出らしく「モノからコトへ」という大森荘蔵先生の得意のフレーズをやらたいいだす。つまり、古典物理学までの世界では、原子核の廻りを電子が飛び回っていたという確固たるイメージがあったんだけど、いまや、電子とは確率的にあるというか、いつもいるわけじゃないというか、そんな不確実な「雲」のようなものであるということを前提としてモノを理解しなくてはならない、というのがこの本の主題として浮かび上がってくるしかけ。

 そんな中で閑話休題となるが、電車男からブームになったエセ秋葉文化に批判を加えているのは個人的には気持ちよかった。曰く、エヴァのフィギュアを集めることなどは「性をモノに込めているという意味で物象化が進んだ状態」で、「生きている相手との関係性(=コト)は見られない」と。メイド喫茶でご主人様と迎える店員は上下関係を安定したものとして受け入れている「相手をモノとしてあつかう」典型的な物象化の例なのだ、と(p.49)。その後の、資本主義社会が無産階級をモノとして扱う云々というのはあまりにもナイーブだけど、秋葉で一儲けしようとしているバカどもを批判しているところはスカッと読ませてもらった。なんか「モノとコト」の大森理論を換骨奪胎してクオリアもので大もうけしている茂木某よりも、よっぽど好感度高いし。

 それと「超ひも」理論に関しては、これまでもわかったような、わからないようなイメージしかなかったけど「なぜ、ひもの形をしているかと言えば、大きさのない点が特異点という悪者をつくりだしていたので、それを回避するために大きさをもたせてみたのである。ようするに『点』の次に簡単な幾何学的構造が『ひも』だったのである。そして、その試みは大当たりした」(p.160)という説明は目ウロコものだった。そして、20年間の研究うちに

・宇宙は11次元という拡がりをもっている
・われわれはそのうちの四次元に閉じこめられている(空間三次元+時間一次元)
・超ひもたちはDブレーンから生えている
・超ひもとDブレーンが固くからまった状態はブラックホールである
・Dブレーン上を動き回る超ひも同士がぶつかると、ちぎれて泡が飛ぶようにDブレーンを離れるが、それはホーキング博士が予言したブラックホール放射である

という予言が数学的に明らかにされているという(p.162)。ただし、誰も実験で観測されていないが…。この後のスピンネットワークについてはわくわからなかったが、とりあえず、そうしたものが最先端にある、というのがわかっただけでもありがたい。

 超お勧めです。

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