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December 25, 2005

『松井教授の東大駒場講義録』

matsui_komba

『松井教授の東大駒場講義録―地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る』松井孝典、集英社新書

 東大大学院の松井教授がなんと般教のコマを受け持ち、学部の学生相手に「惑星地球科学II」という講義を受け持ったという。本書はその録音からおこした新書。なんとまあ、豪華なことじゃありませんか。最先端の学問を、その最先端を行っている研究者自身から、学部レベルで話してくれる講義を、仮想ながらも本という形で受けられるわけですから。

 ガイダンスから飛ばしてくれます。「地球の生物圏はあとどれぐらい存続できるのか?」。解答を明らかにするまでに、いろいろ小技もきかせてくれるのだが、答えは5億年。「太陽は現在も明るくなり続けています。実は地球が誕生した頃には、太陽は今より30%程暗かった。太陽は46億年かけて今の明るさになり、今後も1億年に1%くらいの割合で光度を増していきます」。地球は地表の温度を一定に保つため、二酸化炭素を減らしてきたが、5億年後には大気中の二酸化炭素は今の10分の1ぐらいに減り、それではシノバクテリアを含めて光合成生物が生きられないので、生物圏はなくなる、と。

そして、このシノバクテリアの最も古い化石は34億6500万年前の地層から発見されたという。地球上で最も古い堆積岩が38億年前というのだから、なんと古いことか。

 後は巨大ガス惑星が3つあると軌道の安定性に欠け、太陽系のように木星と土星という2つだと安定している(pp.144-)なんて議論も、計算なんてできないにしても「なるほどねぇ」と思ってしまうし、1995年に最初に見つかって以来、2005年5月までに惑星系は138個見つかっているとか(p.149)、月の形成には地球に火星サイズの惑星がぶつかったジヤイアントインパクト説が正しく、地球の軌道上には火星クラスの惑星が何個も出来ていたことがあったとか(pp.186-)、とにかく読んでくださいとしかいいようがない。ハッキリいって理解できない部分もあるけど、とにかく凄い分野で、しかも急速に進歩している、というドライブ感が伝わってくる。

 アストロバイオロジーの研究機関はアメリカに15ヵ所あるのに、日本ではゼロで「君たちの中から優秀な惑星科学者が出てこない限り、こういう日本の状況は改善されない、ということを指摘して、今日の講義は終わります」(p.82)とか、系外惑星に関しては「皆さんが大学院に進む頃の研究テーマが山のようにあるからです。博士論文が100ぐらい書けるかもしれません」(p.168)と檄を飛ばす姿は、なんつうか、ハイデルベルグやベルリン大学で「諸君!」と講義を始めるヘーゲルの著作を思い出してしまった。

 直接的な専門からはちょっと外れているかもしれないのだが、おばあさん仮説は面白かった(p.56)。現世人類がなぜこれだけ人口を増やせたのか、というのはおばあさんがいたからだ、と。ネアデルタール人にもおばあさんの化石は見つかっておらず、他のほ乳類でも生殖可能期間終了後も長生きするおばあさんはいない、と。しかし、現世人類だけはおばあさんがいて、娘の面倒をみてやれるから、お産が安全になるとともに、新生児の死亡率も下がるほか、子育てを代行してくるために、産間期間が短くてすむ、と。似たような議論は中井久夫先生が父親を入れた家族制度をつくったことが、人口増をもたらし「人間は頭脳よりも先ず下半身で他のサル類に勝ったのである」(『時のしずく』p.122)と書いているが、今、なぜ現世人類がこれほど人口を増やせたのかという議論はブームなのだろうか?

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