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November 16, 2005

岡野さんが「クラマーから学んだこと」

cramer_okano

 13日の新宿パークタワーの続き。クラマーさんの講演が終わるとすぐにパネルディスカッションというか、シンポジウム。最初は岡野俊一郎日本サッカー協会名誉会長による「クラマーから学んだこと」。ドイツ代表に同行して、ストックホルムで行われた66年ワールドカップの最終予選に連れて行ってもらい、そこでベッケンバウアーの代表デビュー戦を見るとともに、監督がベンチや控え室でどんなことを言うのかなどを勉強させてもらった云々なんてマクラも面白かったけど、その後の討論も含めてダイジェストで…。

 「クラマーさんが日本のサッカー界にもたらしたものをひとつだけあげろと言われれば、それは『スポーツのコーチ学』をもたらしてくれたということにつきると思います。それまでも日本には素晴らしい指導者がいました。しかし、その教えは『コーチ術』でしかなかった。東大サッカー部のコーチ術、長沼さんの関学のコーチ術はあったけど、それは自分の経験を伝えていたにすぎなかった。指導者が変わると教え方も変わってきてしまう。そうした中で、クラマーさんは35歳という若さでありながら、理論と戦術、トレーニング方法と試合の分析による体系的な『コーチ学』を示してくれ、なおかつ技術を自分でやってみせてくれた」

 「まず教わったのはボールを正確に蹴る方法。そのためには足を正確にボールに当てなければならない。そのためには当てるところを固定しなければ、ボールと足との当たる部分が固定化されず、いつまでたっても正確なボールを蹴ることができない、ということ。これはゴルフに例えるとわかりやいんですが、アイアンのロフトは固定されています。当たる部分がグラグラしていては正確に飛ばない。サッカーはそれを足でやるんだ、というわけです。我々はそうした理屈を知らないでボールを蹴っていました。クラマーさんによって初めてキチッとした理論として蹴り方を教わったのです。しかも、クラマーさんは、それを実際にやってみせてくれる。私たちは乾いた砂に水がしみこむように、その教えを吸収したわけです」

 「『サッカーは攻めと守りしかない』『ボールから自由になれ』『シュートはゴールへのパス。GKが獲れないところにボールを送り込め』『選手を戦術にはめ込むのではなく、選手の能力を高め、相手チームを分析しながら作戦を立てることが重要』。これらはすべてクラマーさんから教わりました。日本人はヨーロッパの人々と比べて骨量が20%少ないんです。ということは当然、骨の周りにつく筋肉の量も違ってくる。普通にやったのでは当たり負けする。パワーをつけるためのウェートトレーニングの方法も教わりました」

 「八重樫は『メキシコの銅は東京オリンピックの遺産で獲れたようなものだ』と語っていました。様々な便宜を図ってもらい、検見川で長期合宿させもらって、しかもバターやチーズ、牛乳などもタダで企業からいただけました。そしてウェートトレーニングもやる。横山も『その体が4年間持ったんだ』と言っていました。しかし、もうひとつの遺産がありました。それは八重樫が語った『クラマーさんのために戦うんだ』という気持ち。東京オリンピックで生まれた精神的な支柱も4年間持ったのです」

 「日本人はサロン的な雰囲気が好きなのでサッカー好きが集まるとすぐ戦術論の話になる。もっとくだらない議論としてはボールはアウトサイドで蹴ってもいいのか、なんていうのもありました。しかし、クラマーさんが何回も語っているように、サッカーとは相手より1点多くゴールを決めて勝つというシンプルなゲーム。そうであるならば、どうやってシュートを打ってゴールに入れるのかという戦術は相手のプレーにあわせて考えていかなければならないことになります。最初に固定的な戦術ありきではない。また、ボールをアウトサイドで蹴るか、インサイドで蹴るかは状況判断。そして、選手たちは走り回らなければならない。クラマーさんは、練習中に休んでいるような選手を見つけると『疲れているなら椅子を貸そうか?』と怒りました。戦術はゴールを入れるためにある、選手は走らなければならない、という基本は100年たってもかわらない。その100年たっても変わらないベーシックなものを教えてくれたのがクラマーさん」

 「実はテレビ解説のやり方を私に教えてくれたのもクラマーさん。1960年に韓国を破ってチリワールドカップ出場を決めたばかりのユーゴスラビアを日本に呼んで国立競技場で日本代表は戦いました。お客さんは1000人ぐらいしか入らなかったのですが、NHKが放送してくれることになり、私が解説者として呼ばれました。もちろん初体験。実はユーゴを韓国帰りに呼んでくれたのもクラマーさんだったんですが、私に対して『テレビは重要だ。大切にしろ。解説者はセンテンスを短く、正しい言葉で喋れ』というアドバイスをくれた。また、ユーゴの選手一人ひとりの特徴も教えてくれて、放送では役にたちました。おかげさまで放送は好評で『サッカー解説は岡野でいこう』ということになり、この後のダイヤモンドサッカーまで続くことになります。それにしても、最近のサッカー番組の言葉はヒドイ。ゴールマウスというのはゴールエリアのことで、ゴールの"口"という意味ではありません。また、ハーフコートなんて言う人もいるが、コートというのはテニスなどの言葉」

 「アディダス社を日本サッカー協会のスポンサーとして紹介してもらったのもクラマーさん。アドルフ・ダスラー会長の3人いた娘のひとりインゲさんをもらったベンテ副社長が来日した時、私の知っている店にお連れしたことがあります。私がカネを払おうとすると、クラマーさんは『アディダスの副社長はカネ持ちなんだから、払ってもらえ』とまでいってくれました。さらには『ダスラー会長にはまだ娘が2人いるから、岡野、お前ひとりもらったらどうだ』とまで言ってくれました。今となってみれば…とも考えますが(笑)、とにかくアディダス社は日本代表がヨーロッパに遠征に行くと様々なアレンジをやってくれ、練習場にはウェア、シューズなど一人ひとりにぴったりのキットを揃えてくれたんです。当時は、日本のスポーツメーカーもサッカー日本代表などには見向きもしてくれなかった頃。2002年の代表ジャージをどのメーカーにつくってもらおうか、ということになったとき、正直申し上げてアディダス社より高い金額のオファーを出してきた会社もありました。しかし、私たちは1963年から応援してもらっていた恩を忘れずアディダス社に決めたんです。『水を飲む時は井戸を掘った人のことを忘れてはいけない』のですから」

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» [football]抑圧する老師の不在 [不未之奇]
 [http://pata.air-nifty.com/pata/:title=pata氏]の11/13-16の日記を読まれたし。長文だが、ちょっとでもサッカー知ってたら必読。  本章の見出しだが、クラマー御大が抑圧してると言いたいんではないのよ。組織のトップは重石がないだけに強い自制心が必要ですが、仮に組織の中にいなくても、絶えず視線を感じさせてくれる「老師」の存在は大きいと思います。柄谷なき(死んでないけど)後の論壇(つうのか?)の「保育園のお遊戯の時間」状態を見よ。  今のJFAのクラマー世代... [Read More]

Tracked on November 17, 2005 at 07:59 AM

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