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November 18, 2005

『渡邉恒雄回顧録』

nabetsune_kaikoroku

『渡邉恒雄回顧録』伊藤隆、御厨貴、飯尾潤、中央公論新社

 ナベツネ伝説で最初に人口に膾炙したのは、読売新聞本社の土地払い下げに関するものだろう。新聞記者なんていうのは、ある程度の地位に昇ってしまえば、後は営業的にというか、どれだけカネを会社にもたらすか、なんていうことがまことしやかに語られ、佐藤栄作首相と渡り合って大手町の土地をぶんどってきたナベツネ、というイメージがぼくなんかもしみついていた。

 ところが、この回顧録によると、だいぶ様相は違う。この本によると、1963年、大蔵省は財務局の跡地を読売に払い下げることを決定していたが、産経新聞の水野成夫会長が「産経の隣なんだからよこせ」と横やりを入れて佐藤首相にひっくりかえさせた、と。

 ここまで聞けばどっちもどっちみたいな話だが、ナベツネよると新聞社は公共性が高いというので、産経、毎日、日経、朝日も本社の土地を払い下げてもらっていたという。唯一の例外が読売。結局、1968年になって佐藤首相がワシントン支局長に赴任する前のナベツネを首相官邸に呼んで「渡邉君、きみのワシントン行きの餞別にあの土地を払い下げます」と言い渡して一件落着(p.223)。

 大手町の土地を、冗談にしても餞別代わりにもらうナベツネは、そもそもどのぐらい政治にクビを突っ込んでいたのかというと、後に副総裁となる大野伴睦の著名入り記事を書きまくり、回顧録まで執筆してしまうほど。大野伴睦の著名入りで書くと、原稿料はバカ高いものが貰え、それで部下に奢りまくり、社内に派閥をつくっていったというのだから、偉いというか、マネできません。

 ナベツネが日共の東大細胞のキャップだったことはあまりにも有名だが、このほかの新聞人にしても、土地払い下げでやりあった産経の水野成夫は、福本イズムで有名な福本和夫と共産党時代に仲が良く、福本は息子・邦雄をサンケイの発行している日本工業新聞に入れ、さらには椎名悦三郎の秘書としたという。この福本邦雄がナベツネに樺美智子さんの死に際しての政府声明の執筆を依頼する。「いっぺん政府声明なるものを書いてみたいと思っていたんだ(笑)。人の発表文ばかり一所懸命写しているだけじゃつまらないから、自分が書いたものを記者仲間に書かせたら面白いと思って」(p.176)という禁断の楽しみをおおらかにバラしている。

 それにしても、革新官僚・岸信介の一番弟子だった椎名悦三郎が福本イズムの息子を秘書にしていたとは、戦前の革新官僚とマルクス主義というか「コミューン主義」は本当に親和性がたかかったんだな、と改めて感じる。それと「財界右翼」のサンケイグループの総帥が戦前は日本共産党中央委員であり、転向した後、軍用製紙工場の払い下げを受けて「国策パルプ」を設立したことからその歩みを始めるというのは、いろんな場面で記憶しておいていいことだ。。

 ナベツネは組閣名簿を発表の数時間も前に大野伴睦から聞き、それを大野番の記者連中に伝えるようなことだけでなく(p.203)、さらには派閥のだれそれを入閣させるかなどの連絡の取り次ぎ役にもなっていく。しかし、こうした行動はナベツネだけが行っていただけではなく、宏池会に食い込みまくったNHKのシマゲジこと島桂司元会長などもいるし、戦前から考えれば朝日新聞会長から総理大臣一歩手前まで行って急死してしまう緒方竹虎などもいる。ナベツネは自覚的な分だけマシかもしれない。

 ナベツネはワシントン・ポストのキャサリン・グラハムがケネディに肩入れし、民主党内の反対にもかかわらず「テキサスをとらなければ我々は負ける」と党内を説得して副大統領にリンドン・ジョンソンを据えてニクソンに僅差で勝利したことを引き合いに出して、「中に入らなければ真実は書けない」と思うに至ったという。

 それと疑獄事件みたいなもののうち、「検察などは立件できないものはリークして社会的制裁を加えようとする」(p.354)というのがあるというのも面白かった。この本であげられているのは、造船疑獄(p.157)とリクルート事件(p.354)の例。

 そして、ぼくがナベツネさんを見直したのは、書くことに最後までこだわっていること。ある程度の記者の中には"書かざる名記者"というものが出てくるが、彼は最後まで自分で書くことを相手に対するプレッシャーとして活かしていく。

 ほかにもエピソード満載。最高に面白かった。さすがに生きている政治家に対してはやや遠慮がちだが、保守合同から佐藤内閣成立あたりまではネタの宝庫。日記はやや退屈だったが、600頁を一気に読めた。

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Comments

以前読んだ”風の生涯”と言う小説は辻井喬氏が水野成夫氏をモデルにした主人公が活躍する小説ですがなかなか面白かったです。存命の関係者も多いためもやもやっとした部分が残ります点もありますが。
http://d.hatena.ne.jp/chomo/20050429#1114786852
もしまだお読みではなくてご興味あるようでしたら。

Posted by: ちょも | November 21, 2005 at 02:38 PM

ちょもさん、ありがとうございます。小説はほとんど読めない状態になっているのですが、とりあえず、Amazonして確保しました。この手のは単行本で揃えたいと思っているのですが、解説も読んでみたいので、文庫本にしました。

Posted by: pata | November 21, 2005 at 03:37 PM

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