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November 27, 2005

『コクと旨味の秘密』

koku

『コクと旨味の秘密』伏木亨、新潮新書

 以前から読んでいて、まだ紹介していなかった素晴らしい本。

 よく使われているコクという言葉は、キチンとした定義ができていないという。それは指示対象としての意味がハッキリ定義できないということも含めて、学術的な解明もできていないという。一方、もうひとつの題名となっている旨味についてはざっくりいってグルタミン酸やイノシン酸などで化学的に説明できる。

 まだ、コク学というものが始まったばかりということもあって、新書でも情報が整理されていないというか、面白いデータはいっぱいあるんだけど、うまく配置できていない印象はあるものの、情報そのものが面白いので、大許し。

 例えば、甘味はコクの中で重要な役割を果たしているというが、短時間ではあるものの、甘みをまったく感じられなくなることができるのだという。それはインドに自生するギムネマ・シルベスタという葉を噛むこと。これを噛むと、チョコレートは石けんの固まりに、おまんじゅうは砂の固まりに感じられるようになるというのだからすさまじい。人間はどこの民族でも血糖値は一緒だというが、甘味はこの血糖値を維持しエネルギー源となる。同じくエネルギーが最高に凝縮されているのが油。このほか、ナトリウムやミネラルが期待できる塩味、タンパク質を得られるアミノ酸などの味が混ざり合った状態は、豊富な栄養素を含むことを意味し、そうした状態をコクがあると感じるのではないか、としている。

 こうしたコクのある食べ物を摂取した時、脳は「空間的な広がり」と「時間的な広がり」を感じるという。このうち時間的に広がりについては、精糖された砂糖や精製された塩よりも、黒砂糖や天然塩の方が様々な成分を時間差で次々と感じられることによって説明されている。また、舌だけでなく、軟口蓋などでも味覚を感じるため、空間的な広がりという印象が得られるのではないか、という。

 なにせ、軟口蓋はペニスの先端と同じぐらいセロトニン産生細胞が存在しているという。つまり「口の中は、生殖器に匹敵するほど物理的な刺激に敏感な器官なのです」(p.43)と。ということで、アルデンテ状態のうどんやパスタが口の中で暴れる感じが好まれるのだ、と。それも快感だから。さらには、喉越しの食感なども三叉神経によって伝えられる。もう、すごいね。口の中は…。すごくエロいもんらしい。

 このほか、味のない大きな分子デキストリンが無味ながらコクを増す働きをしているというのも面白かった。ここから発生する問題として、豚骨スープの分子も巨大だとか、牧場でとれたての牛乳の分子はデカイなんていうのも以外だか納得的。

 さらには、どうやって認識するのかわからないけど、栄養のない油などをマウスに与えても飽きられてしまうという実験なども「そういえば酔わないビール、低カロリー食品なんかは、長続きしないもんな」と激しく納得できる。

 とにかく食べ物を味わうというか、その文化特有のコクを味わうことができるというのは、個人の重要なアイデンティティなんだな、と思った次第。

目次

はじめに コクの世界へ

第1話 料理のコクの生理学
コクとキレ
ネズミもコクが大好き
ネズミを太らせる法
ネズミの好きなビール
集合の力
甘味が失われた世界
栄養はおいしい
脳の機能から見たコク
味覚のホップ・ステップ・ジャンプ
日本酒の時間差攻撃
空間的な拡がりの正体  
口の中で暴れる旨さ  

第2話 味わえないおいしさ  
味覚の外側へ
味のない大きな分子
豚骨スープも巨大分子
性的な食感
ホットな魅力
不均一もキイワード
濃すぎると飽きてしまう

第3話 美味の事情
卵類は完全栄養系
ミルクも完全栄養系
肉食動物の好み
一粒三〇〇メートルの甘味
キムチの真贋
混ぜ合わせの妙
「合わせ技一本」系のコク
漬ける、浸ける
こがす、いぶす
あまのじゃくな「さっぱり系」
  
第4話 我が家の食は宮廷料理
家庭料理は絶品揃い
カレーのすごさ
腐臭の魔力
貝の解明
ニンニクと硫黄
孤高の蕎麦
最後の牛丼
牧場のミルクはなぜうまい
飛行機のスープはなぜうまい
洗練に命をかける日本の料理人
日本酒のコク、ビールのコク
ワインに醤油

第5話 コクは三層構造
メカニズムに迫る
中心部は「コアーのコク」
コアーのコクはやみつきとなる
マウスは油脂に「やみつき」
行列とネズミのレバー押しは似ている
マウスはダシも好き
本能のおいしさ
麻薬の快感
新生児も喜ぶ
動物はノンカロリー嫌い
脳内の味判定
別腹は脳内にある
塩味には執着せず  

第6話 感じる舌の事情
にぎやかな舌
油の受容体
油はなぜおいしいのか
砂糖を感じる受容体
ダシのうま味を感じる受容体
ダシと香りの深い関係  

第7話 第二層のコク、第三層のコク
とろみ、ねばり
カレーライスのとろみ
香りは重要
油と共存する風味
連想もおいしい
第三層のコク
「本能」「学習」「修練」
コクの極北
ベテラン俳優の味
ジャズの味わい
無限の拡がり

第8話 飽きのこない味
動物、子供、大人
コンビニ食品のわかりやすさ
ファストフードの劣情
吸い物の品位
満足のはるか手前にあるもの
快感の絶頂
真のおいしさの喜びとは  

第9話 コクの周辺感覚
江戸の粋は手前の思想
手前の思想の暴走
三叉神経の刺激が暴走する
超ドライは痛い?
三叉神経が介在するマゾヒスティックな世界  

第10話 洗練を味わいながら死にたい
油文化圏とダシ文化圏
日本人の味覚座標
ネズミに日本文化を教える
香りの記憶
離乳食から幼児食
母乳で母親の嗜好が伝わる?
介護食の再考を

第11話 大予想! 二〇××年のコク業界
新しいコク発見される
KOKUブーム到来
非コク民登場!
「負け犬」返上へ業界団結か
スローフード店が誕生
東京のトウガラシの消費量がソウルを抜く
「お菓子で食事」時代
 
あとがき

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Comments

ううむ。。。最近全く読書というものをしていなかったのですが、流石にヤヴァイと思ってました。
リハビリも兼ねて読むには良さそうな本ですね♪

コクの解明、僕も挑戦してみたいと思いますw

Posted by: ぐるめ | November 28, 2005 at 11:35 AM

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