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November 11, 2005

『Game of People アジアカップ&ユーロ2004超観戦記』

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『Game of People アジアカップ&ユーロ2004超観戦記』西部謙司、双葉社

 05書評年度(04/12-05/11)のサッカー本は、出版点数自体が減っているのか、それとも単にぼくの視線が曇っているのか、これというものが少ない。このままでは大して数も選べないと思い、とりあえず、読み落としている本を探して読んでいる。そんな一冊がこれ。

 それにしても、サッカーの良書が少ないように感じるのはなぜか。売れないからだろうか。たしかにサッカーファンはインターネットとの親和性が高く、しかも情報はネット上にあふれているため、わざわざ単行本を買って読むという必要を感じていないのかもしれない。また、ごく一部を除いて、単行本にまとまった形を想定しながらエッセイやレポートを書きつづっているライターも少ないと思うから、なかなか本という形にまとまらない。さらにいえば、02サッカーバブルの時に粗製濫造された本が多かったということも市場を冷やしている要因かもしれない。

 あと、もうひとつあげるとすれば、儲ける対象である日本代表そのものが、語りにくい状況にある、ということ。

 だって、ジーコジャパンって語りにくいでしょ?ジーコが要求しているのは、ごく当たり前のことを高いレベルでもクールに実践しよう、ということなんだから。これまでのように、知られていない戦術を解明する、みたいなアプローチの仕方はできないわけだ。ということで、必然的に、こうした観戦記みたいなスタイルで、ジーコジャパンの日常を追いかける中で、その真実をかいま見よう、という手法がとられることになる。結論的にいえば、この本はそうした手法の中では秀作に入ると思う。

 ジーコ・ジャパンの練習。それはダラダラと始まるという。そしてトゥルシエがフラットスリーのシャドートレーニングを飽きずにやったように、シュート練習だけは飽きずに繰り返す。ジーコは「シュート練習は歯磨きのようなものだ」といっている(p.19)。しかも、そのバリエーションはあまり多くはない。中学生がやるようなイージーなものだという。しかし、それでいいらしい。なぜなら「難しいシュートを決めろとは言わない、決定的なのを確実に決めることが大事なんだ」から(p.22)。試合が90分あるならば、練習みたいなイージーなシチュエーションは2、3回生まれる。それをすべて決めれば負けはしない。そして、シュートの際は「落ち着いて、GKを見て、しっかりボールを見て、ベストフォームで打て」(p.22)。

 『ジーコの考えるサッカー〈LEVEL2〉』NHK出版で、小山道雄さんが書いているように「ジーコは彼の長い現役生活を通して、その『基本としてあるべきことがら』を実践してきた。だらかこそ、彼、ジーコは偉大なんだ、と私は思っている」(p.185)ということを改めて思い知らされる。

 日本代表は11勝1敗という素晴らしい成績でアジア地区予選を勝ち抜いたが、多くのファンが勝ち抜きを確信したのは、タイで行われた北朝鮮戦で大黒がGKを交わして、ヒョイとゴールに流したゴールの時だったと思う。そこには詳細に語るべきなにものかがあるわけではない。イージーなチャンスを確実に決めるという当たり前のことが行われただけだ。だから書き手も困るんだろうな、と改めて思う。

 この本に戻って語れば、アジアカップで見せた日本代表のたくましさは、当たり前のことをやり続ける非凡さではなかったか。リードされていても、最後のホイッスルが鳴るまでは諦めない。PK戦の芝の状態が悪ければ主審に食いさがるし、逆転されて残り時間がほとんどなくなったら、最後はDFが前に残ってヘディングで決める。つまり、「息をしているかぎり、このチームは何かをやってくれる」(p.78)というレベル。相手にしてみれば、こんなイヤなチームはないだろう。そうしたチームをつくったのは、ダラダラと練習をはじめて、中学生のようなシュート練習で終わるのを日課にしているジーコなのだ。そして、そうしたところに集まる選手たちは「クサるぐらいなら、来なければいい」(三浦淳宏、p.94)というプロフェッショナルなメンタリティを当たり前のように持った選手たちになるわけだ。

 あと、練習の描写でおもしろかったのは、チェンジ・オブ・ペースの練習風景。ハーフウェイラインあたりから、ジーコが適当にボールを入れ、ボールを拾った選手たちがパスを回しはじめる。そして、ある瞬間にジーコがピッと笛を吹くと、「なるべく早くサイドのスペースにボールを運び、一気にサイドをえぐってクロス、フィニッシュという手順」(p.34)。ここで面白かったのは笛を吹くタイミング。ジーコは出し手が弾んだボールの処理に手間取ったり、視野を確保できていないときにピッと鳴らすという。「ボールホルダーに完全にボールが収まっていれば、守る側だって警戒するに決まっているからだ」(p.34)。この後、西部さんは、批判的なことも書くのだが、ぼくは、こうした偶然を生かす考え方が素晴らしいと思った。所詮はサッカー。足でボールを扱えばコントロールできなくなる時がある。そんな時こそ、チャンスなんだ、と。

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