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October 22, 2005

『超官僚』

『超官僚 日本株式会社をグランドデザインした男たち 宮崎正義・石原莞爾・岸信介』小林英夫、徳間書店

 日本は「最も成功した社会主義国家」だと言われたことがあった。重化学工業の時代までは官僚がグランドデザインした経済政策はうまくいき、その後もしばらくは護送船団方式の経済運営をやっていけるだけの余裕を積み立てることができた、という意味だとは思うが、そうした日本株式会社を誰が構想したのか、という質問に対して「それは満鉄調査部の宮崎正義が、世界最終戦論で有名な関東軍参謀の石原莞爾に委託された研究結果を、岸信介が形にしたのが始まりだ」という仮説を提供したのが小林英夫という人。この人は最近でも、実はあまりパッとした内容ではないのだが平凡社新書から『満鉄調査部』を出している。

 宮崎の構想した「国家統制」経済は、ざっくり言ってソビエト・ロシアの計画経済を技術面だけ換骨奪胎したもの。こういうところでも、日本人というは「ちょこっと変えて自家薬籠中のモノにする」というのはうまいな、と思う。

 計画経済に対する岸の親和性に関しては、自身では否定的に語ってはいるものの、前に紹介したばかりの『岸信介の回想』でも話し相手になっている矢次一夫が、岸の上司で後に事務次官となる「吉野さんはロシアの第一次五カ年計画を知って、ソ連は恐るに足りない、成功する可能性はない、しかしこれを俺にやらせてくれれば、必ず大成功させてみるがねと言ったことがある」という(p.17)。二人三脚でやってきた岸・吉野コンビならやりかねない、と確かに思う。

 さて、宮崎は軍事物資の増産を関から要請され、それを満州国において、五カ年計画に似た統制経済下が達成しようとした。同じような考えに達していた岸信介が39歳の時に渡満してきて、叔父である松岡洋右満鉄総裁と組み、かつ騙しつつ、日産コンツェルンの鮎川義介に日本から引き払って満州にすべての資本を移すように説得し、実行する。

 その目標はあくまでも「日満、北支を範囲とする戦争持久に必要なる産業の開発を急ぎ、特に満州国においてこれが急速なる開発を断行する」という石原莞爾の対ソ兵備計画の一環として行われたものだった。そして、具体的に行われたことは「満鉄の財産を松岡が切り離し、それを鮎川が引き受け、それを統制して切り盛りしたのが岸であった」(p.195)ということなんだろう。

 しかし、こうした対ソ戦を考えていた旧日本軍の計画は、まったく意味を持たなくなり、米英との戦闘になだれ込まざるを得なくなったというのは、官僚的な大局観のなさを表わしていると思う。

 対米戦争回避の方向ではなく日独伊三国同盟に引っ張っていったのが松岡洋右であるのは皮肉だ。官僚というのは、一見、アタマが良さそうに見えても、最後には自縄自縛に陥るというか、融通が利かなくなるということの典型だと思う。ちなみに、日独伊三国同盟を上奏した松岡洋右を昭和天皇が「恐らくはヒトラーにでも買収されたのではないか」と語っていたというのはある程度真実だと思う(『昭和天皇独白録・寺崎英成御用掛日記』寺崎英成、マリコ・テラサキ・ミラー、文藝春秋)。

 そして、さらに、冷戦を有利に進めるためには日本を早急に復興させなければならないとした判断をアメリカが行い、岸らのテクノクラートをA級戦犯の起訴から外し、最終的には釈放。その岸らによって、日本株式会社が完成をみる、というのは皮肉であり、広がりをもった話だ。

 戦後の傾斜生産方式にしても、それを立案した有沢広巳は東大の労農派マルクス主義経済学者であり、財閥解体にしても、満鉄で実施された「資本と経営の分離」が日本でも実行されたということなのかもしれない。つまり、欧米では自然な流れの中というか、資本主義の発展の中で徐々に進んできた「資本と経営の分離」も、計画経済による全体のパフォーマンスアップを目指した統制経済の手法の中で行われたわけだ。例えば、今もって村上ファンドなどに対する嫌悪感みたいなもの(少なくとも手放しで歓迎する人々が多くはいないということ)が日本の中に残っているとすれば、それは「資本と経営の分離」が唐突に、納得のいく形では行われてこなかったからなのもしれない、とつまらぬことも考えさせられた。

  ちょっと感想もまとまらなかったけど、それはモトネタがあまりまとまっていなかった、ということで…。

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