清和会研究『自省録 歴史法廷の被告として』
清和会研究『自省録 歴史法廷の被告として』中曽根康弘、新潮社
岸信介に対する興味はつきない。もちろん、彼の著書、彼に関して直接取り上げた本、影響を受けたと語るゴットル(ナチス時代の統制経済学者、とひとくりするのはナンだが…)の本、はてや満鉄調査部の本など、久しぶりに鉱脈に当たった、という感じだ。さすがに昭和の妖怪。東条内閣で対米戦争開始に立ち会い、戦後はA級戦犯容疑で拘留、釈放されるも公職追放。追放解除となるや社会党への入党を試みたり、自分の政治結社をつくったりするが、保守政党の中でトップを目指すしかないと判断すると、55年には保守合同を実現、そして追放解除から10年もたたないうちに総理大臣となるという過程は、改めて考えてもすごすぎる。
ということで、やや小ぶりながらも不気味さは漂わせていた中曽根がどう見ていたかを知りたくなって、昨年出された自省録を読んでみた。本格的な回顧録と呼ぶには中身が薄すぎて散漫というあたりが、格好はつけるが、どことなく第四派閥の領袖という寂しい立場で頑張っていた風見鶏時代を感じさせてしまうのがこの人らしいところか。
ということで、本人の話はさておいて、保守合同前の岸信介が八面六臂の活躍をしていた時代の政治家像を描く「人物月旦」は面白かった。吉田茂は公職追放となっていた鳩山一郎、三木武吉、河野一郎の解除を躊躇していた(p.61)なんていうのはなるほどな、と思う。そして鳩山内閣のことを「三木武吉がいろいろお膳立てをして、薪をもって積んで、河野一郎が火をつけ、酒を沸かし、鳩山が大野伴睦のお相伴で飲んだ。しかし、お銚子一本で終わってしまた」(pp.61-62)というまとめはさすがに上手いな、と。
肝心の岸信介に関しては、タイトルが「直入正直型の長州人」。かたや弟、佐藤栄作はズルシャモ型長州人とのこと。「夏休みに信介は一高生として帰ってくる。栄作は五高生として帰ってくる。親戚が集まった座の中心になるのはいつも兄の信介の方で、栄作は裏の小川に行って一人しょんぼりしていた」という栄作夫人の寛子さんの証言も面白い(p.93)。そして「佐藤家は儒学を重んじた家系なのか、宰相学というものをしっかりと身につけていました。私の知る総理大臣で、宰相学を本当に身につけていたのは岸信介、佐藤栄作の二人だけです」(p.93)ともいう。
そして、田中角栄については、中曽根政権誕生を支持するということをサシで話し合って決断した夜に「五十名で政権を取るのだから、あまり注文は出すなかれ」とクギをさすあたりの迫力とともに、「福田・中川を許さず。河本が妥協すれば協議に応ずる」(p.155)と言い放つ福田との怨念の深さを改めて感じた。
情報として面白かったというか、単に自分が知らずに教えられたというのは、日本軍はアジア解放を謳って太平洋戦争に突入したが「フィリピンの独立も、すでに十年前にアメリカが約束していた」(p.18)というあたり。ここらありたりを書いているのは海軍主計大尉、なかなか公平だな、と。また、イスラエルのガザ撤退1年前に、典型的なキリスト教国でユダヤ人勢力が支配的な力を持っているアメリカがイラク占領統治を成功させるためには「イスラエルを抑えて、パレスチナとの共存体制を速やかに作り上げる」ことが鍵であることや、「石油戦略上、アメリカの発言権が強くなってくると、各国の経済にさまざまな影響が出てくるのは必至」と見通しているあたりもさすがだな、と。
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