清和会研究『自民党を壊した男』
『自民党を壊した男 小泉政権1500日の真実』読売新聞政治部、新潮社
日本が高度成長から安定成長へと経済成長を続けていくなかで構築していった緻密な制度を「ぶっ壊した」というか、少なくとも主観的には新たな制度設計をしようとしているのが小泉政権だと思う。そして、それは安定成長期を支えてきた内需拡大策で公共事業をやりつくし、付加価値を生むようなインフラをつくり終えてしまったにもかかわらず、小渕内閣までは相変わらず財政支出による景気浮揚を志向して、巨大な借金だけをこさえてしまったような1970年以降約30年間続いた田中派的な経済政策を見直し、まず財政支出を抑えるという、岸-福田ラインの基本戦略に戻った小泉政権を国民が支持したのではないか、ということが、もし思いっきり褒めるのなら、言えるんじゃないかな、と。
ということで岸信介、福田赳夫と小泉首相のルーツをそれなりに辿ってみて、読んだけどまだ紹介していない本もあるけれど、そろそろ"本丸"へ、ということで読売新聞政治部の本を紹介したい。
ここで改めて感じたのが経済財政諮問会議の重み。01年度にはまだ財務大臣だった宮沢元首相が、予算編成の実権は民間委員(牛尾次朗、奥田碩など)に与えないと立ちはだかったが、小泉は諮問会議を「改革の司令塔に位置づける」と宣言して、諮問会議からのトップダウン方式に大きく舵をとった。この結果、夏場の経済見通しを踏まえて7月末に「予算の全体像」を示し、財務省はこの大枠を元に各省庁からの概算要求をまとめる、という流れに変ったという。
つまり、重点分野の5%アップ、国債の大幅カットなどの大方針は経済財政諮問会議で打ち出され「予算というビルは、諮問会議・内閣府が建て、財務省はその中の間仕切りをやっているだけに変った」(p.179)わけだ。こんなところにも、トップダウンによる経済統制を極限にまで推し進めた、岸-福田ラインの匂いを感じてしまうのは勘違いだろうか。もちろん、諮問会議=統制会議とは云わないが。
こう書いていくと、小泉首相礼賛とうけとられかねないが、そうではない。彼は岸-福田の弟子として緊縮財政、派閥解消、憲法改正などの路線を受け継いで、そうした"思想"めいたものもあるように思えるが、実は旧田中派への怨念を晴らす、というベクトルが、たまたま、新たな制度設計のジャマになる古い公共事業に頼り切った積極的な財政という路線を「ぶっ壊して」いるだけなんじゃないかとも思えるからだ。
ただし、岸-福田を反面教師として、毎日、欠かさずテレビの共同取材に応じたりするPR術だけは、はるかに師匠たちを追い抜いたことは事実。そして、岸が安保改定で躓いたツテを踏まないために、総選挙に打って出るという一世一代の勝負に出て完勝、憲法改正も行える2/3を初めて確保したという離れ業だけは、何回考えても凄いと思う。
改めて「そうだったのか…」と思ったのは、公明党が主張していた外国人への地方参政権付与の法案を、憲法改正の国民投票法案をぶつけることで潰した話。「創価学会が勢力を伸ばしている関西も在日韓国人・朝鮮人が多く住んでいる」(p.53)ということで公明党が熱心なこの法案は、実は憲法改正のための国民投票法案をやりたくないから、相打ちを狙って持ち出してきたのではないか、という疑いを自民党が抱き、小泉首相は「(民主党との連携を念頭に)超党派で憲法改正に努力したい」と山崎拓前副総理に語ったという。こんなところも何考えているんだかわからなくてヤだ。
また、旧田中派が事実上潰れる原因となった日歯連の政治献金違反事件は、国政協を介して特定議員に渡るようにしていたことが原因だと云われているが、これも小泉政権が長年の慣行をリークすることによって旧田中派を潰しにかかった結果だとしか思えない(p.249)。
とにかく、党内調整に追われて、ろくにやりたいこともやれなかった岸-福田ラインが、その孫とも云えるような後継者の代になって自民党をほぼ手中にし、経済財政諮問会議で予算編成権を財務省から奪い、強力な"統制"を行えるようになったということは実に怖いことだ。
岸信介には「政権交代可能な二大政党による政治を目指すためには社会党に肩入れする」という器量があったが、小泉首相とその後継者に、そんなことが期待できないならば、多少、背筋は寒くなる。
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