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September 02, 2005

『靖国問題の精神分析』

yasukuni_kishida

『靖国問題の精神分析』岸田秀、三浦雅士、新書館

 いろいろ"靖国本"が並ぶ中、新しい視点からこの問題を考えることができる本ではないか。一時期、何を対象に語っても、言う前にわかっちゃうというか、『ものぐさ精神分析』のコピーを繰り返してきたような煮詰まった状態から岸田秀さんは復活したみたいだ。それは基本的に冷戦前の話だった『ものぐさ精神分析』の内容が、冷戦終結後の、なんか知らないけど民族主義が復活しちゃったような時代にリファインされたというか、個々の国ごとによりシャープな分析が可能になってきたからではないかと思う。

 岸田さんの手法というのは「個人心理を集団心理に転用したんじゃなくて、個人の人格形成のメカニズムと集団の社会構造のメカニズムは、同型なんだということ」(p.79)。だから、国家の問題を、個人の自我の問題と同じように語ってもかまわない、と。むしろ、フロイトも本当にやりたかったことは、そういうことだ、と。『モーセと一神教』は決して余技ではなかったのだ、みたいな。

 そうした岸田流唯幻論の最初の応用が『ものぐさ精神分析』における日米関係の分析。ご存じの方には繰り返しになるけれども、ペリー来航という軍事的威圧による開国の強要を日本はアメリカによる〈強姦〉と受け止め、日本はこの屈辱感をずっと内に秘める、と。 一方、アメリカは日本人をインディアンと無意識的にも同一視しており、それは、文明の伝播という名目の元に、最初はピルグリム・ファーザーズたちを助けてくれたインディアンを虐殺をしたことを正当化し続けるという意味があった、と。だからアメリカはこの"原罪"から逃れようと、いつも"インディアン"を探し続けている、と。そう、いまのイラクみたいに。

 ここまでが『ものぐさ精神分析』の前提とすれば、冷戦終結後の現在、うかびあがってくるのは日米と中国の三角関係。

 戦前、大東亜共栄圏を旗印にアジアの欧米からの解放ということを理念的には掲げていた日本にとって、蒋介石の中華民国はアジアの敵であるアメリカの傀儡に映った、と。それは日本が勝手につくりあげた大義に背いていると、だから"暴支庸懲"でやっつけろ、ということで日中戦争に突入していった、と。

 時代は変わって現在。いくら経済力をつけてきたといっても、中国はかつて"夷"であった日本に攻められたという屈辱は忘れようがない、と。それはトラウマになっている、と。その屈辱感をはらすためには、アジアのためのアジアを中国が中心となってつくりあげるという旗印を掲げざるをえない、と。しかし、今度は逆に日本がアメリカの傀儡のようになって、中国によるアジア解放の大義にことごとく反発してくる、と。それが靖国問題がこじれている原因だ、と。

 岸田さんは、さらに見方を変えれば、現代中国が掲げているのは中華思想による大東亜共栄圏にほかならない、とも指摘する。なぜ、中国がそんな構想をおもいついたかというと、それは攻撃者への自己同一視というメカニズムがあるからだ、と。やられたことと同じ事をしてしまわなければ、気がすまない心理だ、と。

 中国とアメリカは国境という意識を持たない国家だという議論も面白かった。アメリカは合衆国に入りたい国は全て受け入れるのが原則。そして中国は、グラデーションのように世界の中心である中華から放射線状になにごとかが放射されている国だ、と。だから、昔の中国は(元を除けば)、中原を押えるだけで満足して、あまり外には攻め入らなかった。しかし、日本による〈強姦〉の傷を受けた後は、チベットなどに対して、旧日本軍のような残虐な殺戮と侵略を行った、と。

 イギリスとアメリカの戦略の話も面白かった。アメリカはかつての宗主国であったイギリスをまねて、日中ができるだけ反発するような仕掛けをつくっているのではないか、という議論。つまり、イギリスは大陸のフランスとスペイン、あるいはフランスとドイツが不仲になるように、不仲になるようにと仕向けることを外交の基本としたように(だから不実のアルビオンと大陸からは呼ばれた)、同じ事を日本と中国に対して行っているのが米国だ、と。

 この構図が、この本で語られていることのすべて。

 靖国問題は日米中の三角形のちょうど中心に位置する問題だからこじれる、と。こういう見立てもある、ということでイイんじゃないでしょうか。

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