清和会研究『巨魁 岸信介研究』
『巨魁 岸信介研究』岩川隆、徳間書店
小泉首相のルーツを探す中で、いま、小泉の政治的な祖父ともいうべき岸信介に魅了されている。その悪も善も含めて。
そんな岸信介について、同郷の作家、岩川隆さんが書いていた本が絶版にはなっていたが、AmazonのUsed市場で10円で手に入った。一読、面白い。本というのはなんと安く情報を得られるのだろう。
印象的だったのが、戦時中、「東条英機がとばす檄のひとつひとつに気を昂ぶらせていた」という愛国少年・岩川隆さんが、B29による爆撃を受けて防空壕に避難する中で周りの大人たちから「大きゅうなったら岸信介さんのようなひとになりんさい」と説教を受けていたこと。商工次官に就任した時、部下の局長が全員、東大の先輩だったという(p.93)、今では考えられないような出世を果たした岸信介は、田中義一以来の"長州"が生むであろう宰相として、戦前から期待されていた、ということがよくわかった。
そして北一輝への心酔ぶりも改めて感じた。「天皇をつねに雲の上に置き、一般国民との間に藩塀を設くるような制度はことごとく改めなければならない。華族制度の廃止や宮内省の改革は焦眉の急である」(p.37)みたいな言い方の岸信介は幸徳秋水などとも本質的な差を感じさせない。まあ、北一輝の国家社会主義的な考え方そのものが、元社会主義者であるというところから出ているものなので似てくるのは当たり前かもしれないが。商工省次官の吉野信次とペアとなり、重要産業統制法を敷くという歩みは、北一輝の『日本改造法案大綱』を経済面から実現するんだ、という密かな意志さえ感じられる。まあ、もちろん、ナチスの正式な党名は「国家社会主義ドイツ労働者党」だったわけだが。
そして満州国の産業を「まるで白紙に描くようにして造ったわたしの作品である」(p.52)と語る岸は、参謀長だった東条英機らとともに満州の「二キ三スケ」と呼ばれ、東条内閣の時には軍需大臣として入閣するわけだ。
もちろん戦争には敗れる。しかし、戦犯容疑で逮捕され、東条らが絞首刑となった翌日、ボロボロの軍服を着て巣鴨プリズンから釈放された岸は、その10数年後には日本国首相にまで登り詰める。
なるほどな、と思ったのは戦後、金銭面でのバックとなる新日鐵の永野重雄、稲山嘉寛などは「鉄鋼統制会」時代に懇意していた仲間であり、常に汚職容疑がつきまとった岸の場合、FX調達などを除けば、鉄がらみが多かったのもうなずける。
いま、『岸信介証言録』をまとめた原彬久さんの『岸信介 ― 権勢の政治家』岩波新書を読んでいて、それを読み終わったら『岸信介証言録』の続きを書こうと思う。
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