清和会研究『回顧九十年』福田赳夫#1
『回顧九十年』福田赳夫、岩波書店
リベラルな人というか今の野党を積極的に応援はできないけど「自民党だけはカンベン」と思っていた層にとって、今回の選挙結果は耐え難いものに映っているのではないか。あるいは、今回、目をつぶって初めて自民党に投票したニンゲンにとっても、与党に2/3を与えてしまい、ハト派的な抑止力を公明党に頼らざるを得ないという事態は考えもしなかった最悪の状況だろう。
自分自身も我が目をうたがった。そしてエーリヒ・フロムの『自由への闘争』を思い出した。「ヒトラーに政権を与えた時のような大衆」という恐怖のイメージさえ浮かんできた。
しかし"小泉首相にフリーハンドを与えたバカな国民"みたいな言い方も、ずっと吉本隆明さんを読んできた身からすれば受け入れがたい。ぼくは人々の判断を信じる。そして、たとえそれが受け入れがたいものであったとしても、せっかくヘーゲルをずっと読んできたのだから、現実的なものが理性的なものだ、という見方もあるのだ、ということも理解していきたい。
ということで、せいぜい、いまやれることとしたら何かを考えた時に、岸信介と福田赳夫の研究だと思い至った。
小泉首相の自民党総裁としての任期は来年9月で終わる。その後、短期的な政権が消費税の大幅増税をやって(これはぼくも賛成だが)、その後、本格政権に引き継ぐのではないか。そして、どんな人が首相になろうとも、旧福田派から出るか、旧福田派の強力な影響力の中でやるだろう。
だから、そのルーツともいうべき、岸信介と、岸派を引き継いだ福田赳夫が何を考え、何をやろうとし、失敗したのかを、もっと深く知るべきだと思った。福田元官房長官は福田赳夫の長男だし、安部元幹事長は岸の女婿の息子だから。小泉首相自体、ロンドン留学中に親父さんが亡くなって、急遽総選挙に立って負けた後、野沢町の福田赳夫邸で3年間、下足番をやっていたのだから。
ということで、とりあえずAmazonで注文したのは『岸信介回顧録―保守合同と安保改定』岸信介、『60年安保と岸信介・秘められた改憲構想 NHKスペシャル』NHK、『回顧九十年』福田赳夫。まず、『回顧九十年』から読んだ。
構成は以下の通りだが、2部から5部までを中心に読んでいきたい。
第1部 地球人類生き残りのために―OBサミットの貢献
第2部 福田財政の基盤形成―大蔵省時代
第3部 戦後政治の軌跡―保守合同から党風刷新運動へ
第4部 「経済大国」への歩み
第5部 福田内閣の誕生―政権を担当した二年間
第6部 世界の中の日本―「心と心」福田外交―
第7部 昭和天皇の思い出―二度、昭和天皇ご外遊のお供をして
第8部 新しい世界秩序の確立―OBサミットの十二年
[福田赳夫の世界観]
福田赳夫が大蔵省に入省したのは1928年(昭和3年)。残念ながら、それ以前のことを書いていないが、群馬の地方政治家の家らしい。
入省当時、日本経済は関東大震災の余塵で沈滞、張作霖爆殺事件も起こり、田中義一内閣は総辞職、野党の浜口雄幸が首班となった。初めて官僚として仕えた浜口雄幸が旧平価解禁の政策を打ち出す。そして一時は成功するかに見えたこの政策は世界恐慌の中で頓挫する。
こうした政局を福田赳夫はどこでみていたかというと、それはロンドン。当時はまだ世界経済の中心だった。ヒットラーはベルサイユ条約に定められた賠償に対してモラトリアム(不履行)を宣言するが、この宣言が妥当なものかどうかを調査するバーゼル会議が開かれ、福田はオブザーバーとして出席する。
バーゼル会議はモラトリアムやむなし、という判断を出すが、これを討議する連合国側の正式な会議がローザンヌで開かれる。結局、その結論は追認されるが、これを機に、英国はブロック内貿易体制をとりはじめ、それに対抗するため、フランスでは輸入割当制を、ドイツと日本は為替管理による輸入阻止策を打ち出す。この結果「経済混乱の発生以来四年間に、世界貿易は実に四割、世界のGNP(国民総生産)は三割の縮減となった」(p.24)という。
浜口内閣の旧平価解禁という政策は一時的な不況をもたらすものだったが、それが世界恐慌の荒波にもまれることになり、米価は半値、生糸価格は六割減となってしまう。そして、1931年には関東軍が満州事変を起こす。
英国首相、マクドナルドは世界経済会議を1933年に開催、福田も準備会議に出席する。その後、福田は帰国するが、世界経済会議は暫時休憩のまま参会するという結末となり、「世界は破局へ向かっての突進を続けるのみとなった」(p.30)。
(まだまだ続く)
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