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September 28, 2005

清和会研究『岸信介証言録』#1

kishi_shogenroku

『岸信介証言録』原彬久、毎日新聞社

 とてつもない本だった。だから、ちょっと遠くから、何回かに分けて書いてみたい。

 ざっくり云って、戦前の日本を破滅まで追い込んでいったのは、岸信介などの革新官僚と呼ばれる文官と、皇道派の陸軍だった。そして、その両方に影響を与えたのは北一輝の国家改造論と、大川周明の大アジア主義。

 この証言録で、驚くべきことは、原彬久さんが岸信介の「私には、私有財産というものを維持しようという考えはなかった。それだから、例の森戸辰男の論文に対しても、私は国体とか天皇制の維持は考えるけど、私有財産を現在のまま認めなければならないとは思っていなかった。私有財産の問題と国体維持の問題を分けて考えるというのは、その当時のわれわれの問題の基礎をなしていたんです。したがって私有財産の維持というものに対しては非常に強い疑問をもっていました」という証言を引き出しているところだろう。さらに、原さんの「後に革新官僚として岸さんが推進したいわゆる統制経済論というものにもつながっていくわけですね」という質問に対しても「まあ、そういうことでしょう」と答えている(p.352)。

 ここで思い出すのが近衛文麿の上奏文。近衛が1945(昭和20)年2月14日に昭和天皇にあてた上奏文だ。そこではこんなことが書かれている。

 「軍部内一味ノ革新運動、之二便乗スル所謂新官僚ノ運動、及之ヲ背後ヨリ操リツツアル左翼分子ノ暗躍等ニ御座候。右ノ内特二憂慮スヘキハ軍部内一味ノ革新運動二有之候」「昨今戦局ノ危急ヲ告クルト共ニ一億玉砕ヲ叫フ声次第ニ勢ヲ加へツツアリト存候。カカル主張ヲナス者ハ所謂右翼者流ナルモ背後ヨリ之ヲ煽動シツツアルハ、之ニヨリテ国内ヲ混乱ニ陥レ遂ニ革命ノ目的ヲ達セントスル共産分子ナリト睨ミ居り候」
(外務省編『日本外交年表竝主要文書』下)

つまり、「軍部内一味ノ革新運動と新官僚ノ運動」はマルクス主義であるという認識だ。じっさい、岸信介も商工省時代に小林一三大臣から「アカ」呼ばわりされたという。

 こういうバックグラウンドをインタビューで知りえたからこそ、原彬久は『岸信介 ― 権勢の政治家』岩波新書を95年に出し、その中で、岸が満州国で実行しようとした五ヶ年計画のモデルはソ連型の計画経済そのものだった、ということを明らかにしているのだと思う。

 浅学菲才で本当になさけなくなるが、これまで、福田赳夫と岸信介の本を読んできて感じた「岸-福田ラインの消極財政vs吉田学校の積極財政」という対立軸の立て方は間違っているのかもしれない。汪兆銘の経済顧問を三年間もやっていた福田赳夫がやろうとしたことは岸の満州国五ヶ年計画の中国全土版だと仮定すると(その詳細については知りえないので)、計画経済路線そのものではなかったのかな、と思えてくる。

 そして、これは飛躍しすぎかもしれないが、今回の総選挙での小泉首相の歴史的勝利に加担した、若年層の熱狂的な支持ぶり、そして高級官僚の傾倒ぶりは、ひょっとして戦前の北一輝の国家改造論と、大川周明の大アジア主義に熱狂した群像に遠くつながっているものを感じる(とにかく、あんな政治的勝利というか逆転完勝は日本史の中でもベスト5ぐらいに入るものだと思う)。

 もちろん、飛躍しすぎかもしれないし、読書量、知識量の圧倒的な不足からくる邪推なのかもしれない。しかし、「間違った思想でも、大胆にそして明晰に表現されているなら、それだけで十分な収穫といえる」(『反哲学的断章』青土社)というウィトゲンシュタインの言葉を信じて、少し書いていきます。

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