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August 26, 2005

『天才の栄光と挫折』

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『天才の栄光と挫折』藤原正彦、朝日新聞

 ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズという九人の天才数学者たちの栄光と挫折を父新田次郎仕込みの達意の文章で描いた作品。

 藤原さんのおかげで知ったラマヌジャン、ニュートン、ハミルトンの文章は『心は孤独な数学者』新潮文庫のダイジェスト版だったが、決闘に倒れた群論のガロワ、暦(れき)の作成に命をかけた関孝和、そして世界初のコンピュータであるコロッサスをつくり、コンピュータ概念「チューリング・マシン」を考え出したゲイの数学者、アラン・チューリングなどの話は刺激的。

 関孝和のところでは暦の解説が素晴らしい。中国の歴はみな太陰太陽暦であること。それは29日半周期の月の満ち欠けを元にしつつ、"閏月"を何年かに一度入れて太陽の動きにあわせせたものだ、と。しかし、これでは春分、秋分、夏至、冬至などが毎年、歴の上で一定しないから農業に不便である、と。そこで二十四節季を歴の上に記すことにした、と。太陰太陽暦は科学的で精緻なものであったが、遣唐使が廃止されたため、日本で822年間にわたり用いられてきた宣明歴は江戸時代に2日ほどのズレが生じていた、と。そして、徳川幕府の安定は易姓革命が起こると改暦が行われていた中国と同じように、改暦の機運が高まっていった、と。

 ここで、思い出すのが、平将門。網野善彦さんは、将門政権が本格的なものでなかった要因のひとつとして、暦博士を持たなかった、という点をあげているが、この歴博士の重要性というのが、この本で初めてわかった。それは暦博士によって日食、月食を正しく言い当て、それを人々に宣言して、政権が自然の力をも支配していることを示す必要があったのではないか、ということ。

 関孝和のライバルであった渋川春海はフビライが郭守敬につくらせた暦の傑作といわれる「授時暦」をほぼ鵜呑みにしてサクサクと新しい暦を献上。その中で「今後3年間に起こりうる6回の日月食について」言及したが、最初の5回までは的中させたものの、最後の日食で誤ったため見送りになった、ということ。最終的にはさらに改良を加えたものが採用されるが、関孝和は授時暦の算出根拠を一人で調べ、同時代のヨーロッパと対抗できる代数学と微分積分学にまで和算を高めていったという。

 うーん、知らなかった。

 チューリングに関しても、最初のコンピュータはENIACとばかり思っていたので、エニグマ解析のために考案されたコロッサスの方が古いというのはこの本で知った。詳しくは星野力さんのHPをどうぞ。

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