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July 13, 2005

『時代病』

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『時代病 That’s Japan special』吉本隆明、高岡健、ウェイツ

 「日本はいつの時代も〈病〉に侵されている」として太平洋戦争、左翼運動、60年安保闘争、70年安保の全共闘運動、連合赤軍、オウム真理教、フェミニズム、消費資本主義、登校拒否・引きこもり、精神病、三島由紀夫事件、天皇制、フリーター、ライブドア問題、子どもと大人、個人的な自己・社会的な自己、老人問題などについて、吉本隆明さんと精神分析医の高岡健さんが行った3回にわたる対談をまとめたのがこの本。全共闘運動に関しては割と高岡健さんは積極的に語りたがっていたようだが、吉本さんは終わったこと、みたいな感じで、温度差はあるものの、時々、ハッとさせられるような指摘が続くのはさすが。

 「第三次産業が優位になった社会では、どうやって自分の精神性を健全に保っていったらいいのかわからなくなっています。それから、休む仕方が故人の人に委ねられていて、そういうことがうまくやれなかったら(中略)自分で解決する以外ない」(pp.26-27、吉本)なんかは、まさにそうだな、と。自分なりにリラックスする時間やスキルを磨かないと、すぐに消耗してしまうというのは実感としてもよくわかる。この第三次産業優位に関しては、第二次産業のためにつくられたような日本の学校制度が機能しずらくなり、それとともに登校拒否が増えていっているというのも、当たり前かもしれないけど、問題を整理してもらった感じ。そして、いま精神医学の新しい課題としてバーチャル・リアリティとしての過去を語るような人間が増えてきたことに対応した「バーチャル・リアリティとしての無意識」の研究が問題になってきた、というあたりが最初の対談のピーク。

 「エディプスを媒介に形成されてきた人格が、明瞭な像を結ばなくなり、代わりに無性生殖に基づくような人格が登場する」「人格が一貫している方が、昔の社会では生きやすかったからです。ところがいまは、状況ごとにさまざまな人格があったほうが、ある意味では生きやすい」(p53、高岡)という論議にはちょっとシビレた。

 学生運動の評価に関してはあまり話が合わなかったようだが、吉本さんの二人のお嬢さんが学生運動の激しかった高校と大人しかった高校に進学して、激しかった高校の方がずっと良かったというのは納得できる。学生運動の激しかった練馬高校は「非常にいい意味で昔の旧制高等学校みたいで、ゆったりして自由で、すきなことができます」(p.79)というあたり。あと、精神分析の仕事を通しての実感として、高岡さんが90年代を通過してしまうと「(少しでも他人と違った自分をつくりたいという欲求イコール)差異化強迫自体は残っていても、それよりも前面に出てくるのは孤立恐怖ないし同調圧力です」として、今時の17歳が起す事件や犯罪は「みんなと同じ事をしなければいけないと思っているけれども、それがどうしてもできないときに引き起こされているのだと思っています。換言するならば、みんなと同じでない自分を否定的に考えてしまうことによって、それが事件犯罪につながっているのだと思います」(p.115)あたりも納得できる。

 そして、それを受けてた吉本さんが語る「自分の経験から言うと、どうも17歳ごろはいちばん頭が冴えていて、記憶力もあると思います。じぶんでもなんとなくそんな期がしていたから、いまの17歳の人もますますそうだろうと思います。途中のことはめんどうくさいから『えい、しゃくだ、刺してしまえ』と、わりになりやすいかなと思われます」というあたりも頷いてしまう。ぼくも17歳、高校二年生の頃が、一番、人生の成長度合いが高かったと思う。18歳までに経験したことで人間の器は決まると語ったのは誰か知らないが、それだからこそ20歳過ぎればただのヒトということにもなると思うし。

 3回目の対談で面白かったのはネットで集まった集団自殺。ネットの集団自殺では「死ぬ前の数時間だけは擬似的な、理想的な家族というか、個人連合のような家族をつくって、幸せになって死んでいくという意味が」あるのではないか(p.156、高岡)というあたりは新鮮だった。

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