『くたばれ!ハリウッド』
『くたばれ!ハリウッド』ロバート・エヴァンス、文春文庫
こんなに面白い本を今まで読まなかったのはなんとも残念。邦訳は1997/12だから、もう10年近く前のことだったのか…。
ロバート・エヴァンスは『ローズマリーの赤ちゃん』『ある愛の詩』『ゴッドファーザー』『チャイナタウン』『マラソンマン』『ロンゲスト・ヤード』『ブラック・サンデー』のプロデューサー。このうち『ゴッドファーザー』と『チャイナタウン』はアメリカが国家として保存している100作品であり、国家保存の100作品を2つプロデュースしている現役映画人は彼しかいない。
と、これだけでもすごいのだが、この人の人生のジェットコースターぶりはすさまじい。ピアニストになれなかった歯科医の父を持ってNYに生まれ、子役時代からショー・ビジネスの世界にどっぷりつかるが、俳優としては鳴かず飛ばず。やがて兄が始めたファッション・ビジネスの世界に入り、持ち前のエーンターテイメントの才能を発揮して、朝のTV番組の埋め草として自社製品のファッションショーを売り込み、MCも買って出たのが大当たり。巨万の富を築いたところで、伝説的なプロデューサーであるアーヴィン・サルバーグ(マルクス・ブラザーズの作品や、ジェームズ・ギャグニーの作品など)の若き日を描いた作品に、サルバーグその人となって出演してくれと、未亡人から頼まれて俳優としてカムバック。『陽はまた昇る』などに出演するがパッとしないうちに、斜陽産業となったハリウッドの中でも、最低ラインに沈んでいたパラマウント社の立て直しに白羽の矢を立てられ、ヒットを連発、伝説の存在になる。
特に『ある愛の詩』。この映画は史上初めて制作費の100倍以上を稼いだ映画となったという。そして、その主演女優だったアリ・マッグロウと結婚。『ゴッドファーザー』のワールド・プレミアには親友だったキッシンジャーともども現れ喝采を浴びるというところまでが絶頂期。
アリ・マッグロウは『ある愛の詩』の次の主演作に『ゲッタウェイ』を選ぶが、競演したスティーブ・マックィーンと恋仲に陥り離婚。ここらへんからツキがなくなるが『チャイナタウン』では賞を総なめ。『マラソンマン』では、貧窮しかかっていたローレンス・オリヴィエをダスティン・ホフマンと組ませて復活させるという渋い役割も果たす。
しかし、大ヒット確実と云われた『ブラック・サンデー』がアラブ諸国からの反発で大コケにコケたあたりからツキをなくし、コカインでパクられ、身におぼえのない殺人容疑までかけられ、プロデューサーとしてやっていけなくなる。
グレタ・ガルボが隠棲したという隠れ家「ウッドハウス」に閉じこもりがちになった彼だが、『硝子の塔』(1993) でカムバック。かつてのようなビッグヒットには恵まれないが『セイント』(1997) 、『アウト・オブ・タウナーズ』(1999) 、『10日間で男を上手にフル方法』(2003) と現役で仕事を続けている。
アラン・ドロンがすごく義理堅くて良いヤツだったり、ジャック・ニコルソンがそれに輪をかけて良いヤツだったり、フランシス・フォード・コッポラがダメ人間だったり、とにかく出てくる登場人物がスゴイので、70年代によく映画を見ていた人間にはたまらない内容。
この夏は東北に旅行するが、家に帰ってきたら3日間ぐらい、ロバート・エヴァンス製作作品の回顧上映会でも自宅でやろうと思った。
残念なのは、大好きだった『ロンゲスト・ヤード』のウラ話がまったく書かれていないこと。ドキュメンタリー映画『くたばれ!ハリウッド』(2002)も見てしまったし、原作の"The Kid Stays in the Picture", Robert Evans も注文してしまった。
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