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July 18, 2005

『バルトーク』

bartok

『バルトーク 民謡を「発見」した辺境の作曲家』伊東信宏

 サブタイトルが全てを表している。『中国の不思議な役人』や『オーケストラのための協奏曲』のバルトークではなく、東欧の民族主義が勃興する中で、ハンガリー的なアイデンティティーを探し求めるという行為を音楽家という立場で実践した一ナショナリストとしてのバルトークを描いている。

 民謡を採取に田舎に赴いたバルトークが、税金でも取られるのではないかと心配する農民相手に「古い歌を歌ってください」と懇願するシーン(pp.44-49)が秀逸。これは彼の手紙からとられたものだが、ナショナリストとしての指命に燃えるバルトークが、終いには「こんなことにはもう耐えられない。馬鹿げている。忍耐、我慢、辛抱-みんな糞くらえだ-もう家に帰るよ」というあたりは、アタマでっかちの活動家が、民衆にやんわりとしかし、厳しく拒絶されるということが、どこの世界でもあるんだな、ということを思い起こさせてくれる。

 そして苦労して研究した成果を発表すると、右翼からの批判にさらされる、というのも哀れだ。また、論争の中で熱くなったバルトークがハンガリーの文化的優位性に言及してしまうあたりも「ナチスに敢然と抵抗し、諸民族の共存を願った」というイメージにそぐわない(pp.90-91)。でも、なんかぼくはこんな言葉を思わず発してしまうバルトークは好きだね。

 後半のハンガリー音楽=ジプシー音楽という通念をめぐる音楽的な論争は正直、よくわからない。

 ぼくはラヴェルのクールさが好きなのだが、そのラヴェルは『ツィガーヌ』のコンセプトで、ジブシー音楽が真の民謡ではないにしても、芸術的に無価値ではない、ということを示した(p.146)なんて書かれていると嬉しくなってくる。

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Comments

pataさん
『ツスガーネ』とはTzigane(ツィガーヌ)と同義語なのでしょうか?
Tziganeは確かフランス語でジプシーの、とかジプシー風の、とか言う意味だったと思うのですが。
ドイツ語ではZigeuner(ツゥゴイネル)です。
もしかしてハンガリー語ですか?
この本にとても興味を持ちました。
ナショナリストとしてのバルトークについては学生時代にざっと習ってはいたのですが、
いろいろ新しい発見がありそうです。
私も読んでみます!

Posted by: 里香 | July 19, 2005 at 01:37 AM

連日、ありがとうございます。『ツスガーネ』は『ツィガーヌ』の移し間違えです(しかも二ヵ所間違っている…)。おっしゃるとおり、フランス語でジプシーのことです。

http://www.gotomidori.com/japan/m_notes/m_notes-20ravel.html

Posted by: pata | July 19, 2005 at 01:44 AM

pataさん、ご返答ありがとうございます!参考になりましたー。

Posted by: 里香 | July 21, 2005 at 09:07 AM

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