« ガス復帰 | Main | バイロイトをインターネットで »

July 24, 2005

『ペーパー・ムーン』

paper_moon

『ペーパー・ムーン』ピーター・ボグダノヴィッチ

 日本で公開された時に1回、ロードショーで見ただけの作品。ビデオでも探したのだが、探しきれず、半ば忘れていたところ、先日、フト立ち寄ったWAVEでDVDを見つけた。今週末も基本的には家にこもっての原稿書きだが、土曜日はFC東京の試合、日曜日はこのDVDだけは観させてもらった。

 この映画を撮った頃のピーター・ボグダノヴィッチは飛ぶ鳥を落とす勢い。『ラスト・ショー』は2年前のキネ旬の1位だったし(この頃、ぼくは一番映画を観ていたのだが、ピーター・ボグダノヴィッチの作品が入った時のベスト10は本当に凄い*1)。

 物語の舞台は1930年代の大恐慌時代のアメリカ中西部。遊び人の母を亡くして孤児となった少女アディが、義理堅く葬式にやってきた詐欺師のモーゼと一緒に叔母の許まで旅するというロード・ムービー。『ラスト・ショー』と同様、スタンダード・サイズのモノクローム撮影。いまいちキマっていなかった印象の『ラスト・ショー』の撮影とくらべて、赤いフィルターを使って光をまわしてパン・フォーカスで撮るという、オーソン・ウェルズのスタイルを借用したことが大成功している。

 原作の原題は『Addie Pray』。このアディを演じるのは父親Moses Pray(モーセの祈りかよ!)役のライアン・オニールの娘、テータム・オニール。ピーター・ボグダノヴィッチによると、原作も再版時には『Paper Moon』に変えられていたそうだ。Paper Moonは劇中で使われるパール・ホワイト楽団の「It's Only A Paper Moon」から取られたと同時に、ポスターにもなったシーンでも使われた。

 テイタム・オニールの母親、ジョアンナ・ムーア(Joanna Moore)はオーソン・ウェルズの『黒い罠』(TOUCH OF EVIL, 1958)にもチョイ役で出演している。監督のピーター・ボグダノヴィッチはオーソン・ウェルズと共著まで出しているぐらいの仲だったし、『ペーパー・ムーン』ではタイトル、撮影スタイルでも重要なアドバイスをもらっている。こんなめぐりあわせも不思議な気がする。

 こんなに可愛くて小憎らしい表情を出せた子役をぼくは知らない。テータム・オニールは『がんばれ! ベアーズ』も大ヒットしたが、やや不振が続き、86年にテニスのマッケンローと結婚し引退。もう力は衰えていたとはいえ、マッケンローファンだったぼくは、観客席にテータムの姿を見るのが好きだった。似たもの夫婦の二人だったが、結局、3人の子供を授かったのに94年に離婚。その後は鳴かず飛ばずの状態が続いている。

 監督のピーター・ボグダノヴィッチもこの作品で才能を使い果たしたのか、やはり、その後は鳴かず飛ばず。ライアン・オニールもキューブリックの『バリー・リンドン 』(1975)以降はパッとしなかった。あまり注目されていなかった脚本のアルヴィン・サージェントが『スパイダーマン2』(2004) でも頑張っているのとは好対照だ。

 特典でついてくる制作秘話で、チャップリンの『モダンタイムス』のようなロングショットは偶然見つけたロケ地であり、それを撮影してから、冒頭の鍵となるセリフを撮り直したと言っていた。いかにも、ニュー・シネマの時代を現しているというか、ディレクターズ・カンパニーをつくった監督らしい話だ。同じようにラストを決めずに撮影に入った同じディレ・カンのコッポラが『地獄の黙示録』で大借金をこさえてしまう理由は、こうしたところにもあったと思う。スピルバーグやルーカスはこうした失敗から経済的に撮る方法を学んだのだと思う。同じ頃、日本版のディレクターズ・カンパニーをつくった長谷川和彦さんが未だ『連合赤軍』を撮れないでいるのも似ている気がする。

 とにかくいろんなことを考えさせられる映画であり、まぎれもない傑作。いろいろあるけれど、こうした作品を残せた人々は幸せだ。

 この作品が撮影されたのは1970年代の初め。その頃からすると、時代設定の1935は35年前。そして劇場公開された時からすると今は約35年たっているのだが、70年は確かに時代の分水嶺だったと思う。70年を境にした35年前は明らかに別世界だが、その後の35年はあまり変わっていないというか地続きの印象だ。

1974年度
1位 フェリーニのアマルコルド フェデリコ・フェリーニ
2位 叫びとささやき イングマル・ベルイマン
3位 アメリカの夜 フランソワ・トリュフォ
4位 スティング ジョージ・ロイ・ヒル
5位 ペーパー・ムーン ピーター・ボグダノヴィッチ
6位 ブルジョワジーの秘かな愉しみ ルイス・ブニュエル
7位 ジーザス・クライスト・スーパースター ノーマン・ジュイソン
8位 黒い砂漠 フランチェスコ・ロージ
9位 デリンジャー ジョン・ミリアス
10位 エクソシスト ウィリアム・フリードキン


1972年度
1位 ラスト・ショー ピーター・ボグダノヴィッチ
2位 フェリーニのローマ フェデリコ・フェリーニ
3位 死刑台のメロディ ジュリアーノ・モンタルド
4位 時計じかけのオレンジ スタンリー・キューブリック
5位 わらの犬 サム・ペキンパー
6位 真夜中のパーティー ウィリアム・フリードキン
7位 ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦 サム・ペキンパー
8位 ゴッドファーザー フランシス・フォード・コッポラ
9位 キャバレー ボブ・フォッシー
10位 フレンチ・コネクション ウィリアム・フリードキン

|

« ガス復帰 | Main | バイロイトをインターネットで »

映画・テレビ」カテゴリの記事

Comments

『ペーパー・ムーン』を又、観たくなりました。
やっぱし、70年が時代の分水嶺って実感としてわかります。最近、どんどん、500円DVDにしろ、発売されていますが、70年以前のものは、裏切られることが少ないです。

Posted by: 葉っぱ64 | July 25, 2005 at 01:04 PM

>年以前のものは、裏切られることが少ないです。

新しい映画が古いのをパクッているのがわかると、ムカッとしちゃうんすよねぇw

Posted by: pata | July 25, 2005 at 03:21 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/5130013

Listed below are links to weblogs that reference 『ペーパー・ムーン』:

« ガス復帰 | Main | バイロイトをインターネットで »