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July 09, 2005

『心は孤独な数学者』

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『心は孤独な数学者』藤原正彦、新潮文庫

 『世にも美しい数学入門』からの流れ。血は争えないというか、親父さんである新田次郎仕込みの文章はさすが。単なる理系のモノ書きでは終わらない深みを感じさせる。

 この本ではニュートン(イングランド)、ハミルトン(アイルランド)、ラマヌジャン(インド)の3人を取り上げているが、全員がイングランドとの関係を持ち(宗主国と植民地)、栄光とひきかえの深い挫折と悲劇にみまわれている。その三者の生まれ育った土地を藤原先生が訪ね「同じ空気を吸い同じ光を浴び同じ道を歩いて」(p.271)感じたことを書きつつ、その一生を語ったのがこの本。

 数学とは直接の関係はないが、藤原先生がイングランドの保守性(不自由を我慢してしまうところ)と創造性に想いをはせる場面は印象的。「力学(ニュートン)、電磁気学(マクスウェル)、進化論(ダーウィン)はみなイギリス産である。近代経済学(ケインズ)もビートルズもミニスカートもイギリス産である。ジェットエンジンもコンピュータもイギリス産である」「ケンブリッジ大学は戦後だけで三十人以上のノーベル賞を輩出している。古い伝統を尊ぶ精神が、新しい流行や時流に惑わされることを防ぎ、落ち着いて物事の本質を見つめることを可能にしているのかもしれない。伝統を畏怖する精神が、人間に宗教的とも言える謙虚を与え、それが心や目の曇りを取り除くのかも知れない。あるいは古い伝統の中で日常を送ることが、非日常の中で、反動として斬新への爆発力を生むのかも知れない」(pp.62-63)というあたりはいいなぁ。ヘーゲルが講義の中で「服などは目立たないものを着ればいい」みたいなことを言っていたのも思い出した。

 さて、三人の中で、もっとも頁を割かれているのはラマヌジャン。ぼくは『世にも美しい数学入門』を読むまでは知らなかったんだけど、「アインシュタインの特殊相対性理論は、アインシュタインがいなくても、二年以内に誰かが発見しただろうと言われている」そして「数学では、大ていの場合、少し考えれば必然性も分かる。ところがラマヌジャンの公式群に限ると、その大半において必然性が見えない。ということはとりもなおさず、ラマヌジャンがいなかったら、それらは百年近くたった今日でも発見されていない、ということである」(pp.241-242)というぐらいの超天才だという。

 彼の残したノートブックの解明は、未だに完成していないが「分割数やモジュラー形式に関する彼の美しい公式は、今や素粒子論や宇宙論にまで影響を及ぼしている」(p.258)という。なにせ、証明もせずにバンバン毎日6個もの定理を発見してしまうというのだから、研究が追いついていないという(普通の数学者は年6個ぐらいだという)。

 ラマヌジャンの秘密を探る中で、藤原先生がインドの同じバラモンの数学者から「チャンティング(詠唱)」が鍵を握っているのではないか、というあたりも面白い(pp.260-)。詩文などに単調なメロディをつけて唱えることで、大量の知識を確実に蓄えることができ、さらには広がりを持って記憶される。得られた知識や概念をもとあそぶことで、独走的なひらめきが得られる、と。

 ラマヌジャンがバラモン故の菜食主義の結果、イギリスでビタミン欠乏症になって床に伏せっているとき、彼をインドから呼んだハーディ教授が見舞ったが、乗ってきた「天気がひどいうえに、タクシーの番号も数字1729というつまらぬものだった」と冗談のつもりで語ったという。ラマヌジャンは「とても面白い数字ですよ。三乗の和として二通りに書き表せる数のうち、最小のものです」といったという。つまり1の三乗+12の三乗と9の三乗+10の三乗はともに1729になるというのだ(p.255)。いやはや。

 ちょっとマイブームになりそうです。ラマヌジャン。

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