『おまけの人生』
『おまけの人生』本川達雄、阪急コミュニケーションズ
名著『ゾウの時間・ネズミの時間』中公新書)の著者であるシンガー・ソングライター・バイオロジストの本川達雄教授のエッセイ集。ゾウは70年も生き、ネズミの寿命は1~2年であるが、心臓は15億回鼓動すると、だいたい壊れる。心臓の拍動を時計として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになる、という主張は本当の目ウロコだった。
さらにこの本で、キリスト教の影響下にある「西洋の哲学には、どうもまともな時間論が無いらしいのです。時間は神様のものであって、われわれが考えてもはじまらないということで、深い考察の対象になってこなかった」(p.177)あたりは感心した。例えば、老人と子供では体内に別な時間が流れているというのは実感できると思うが、アメリカなどでは、みんな同じ時間が流れているということが前提となっているので、老人となったグレン上院議員が再び宇宙旅行に出かけたりするデモンストレーションが行われることになるわけだ。
半分近くが永平寺に招かれた際に行った『正法眼蔵』に関する講演。本川さんによると、動物はそれぞれ独自の時間を生きていることになるが、それを敷衍すると、ひとりひとりが違った時間を生きていることになる。そして道元が解脱したときの「身心脱落」について、「自分の次元にいつもとらわれていますから、世界が全部その次元でできているとしか見えない。パッと自分の次元が落っこちてしまった時に、違った生きものの、それぞれの次元が浮かび上がってくる、そういう話なのか」(p.204)と考察するあたりが、この本のピーク。
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