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May 28, 2005

『阿部謹也自伝』

abekin

『阿部謹也自伝』阿部謹也、新潮社

純粋な読書というものが楽しいものだということを久々に教えてくれたのが阿部謹也先生の『ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界』平凡社だった。大学に入ってもまともに授業には出ず(まあ、小学生高学年ぐらいから、授業中はほとんど本を読んで過ごしていたのだが)、ムズカシ系の本というか後になって捨て去ったようなイデオローグたちのの本ばかり読んでいた時(ぼくは過去二回、大量に本を捨てています)、差別の問題あたりから『ハーメルンの笛吹き男』に出会ったんだと思う。

 ドイツでの孤独な研究生活、袖口を汚すばかりの古文書漁りの日々、その中で『グリム童話』に収録されている笛吹き男伝承につながる事件があったということを発見する。それは1284年6月26日にハーメルンで130人もの子供たちが失踪したという資料だった。そして「子供十字軍説」「東方植民説」など、時代の背景を元に本当の原因を追及するとともに、笛吹き男にまつわるヨーロッパの差別に関しても検討される、という本だった。一読、ああ、学問の世界とはこんなにも突き抜けられることもあるんだな、と感動した。

 その阿部キン先生がなんと自伝を出すというのだから読まなくては、とじっくり読ませていただきました。なんか阿部キン先生には自伝なんか似合わないと思うのはぼくだけじゃないと思うけど、書いたモチーフは後になって明かになる。それは2期6年つとめた一橋大学学長時代に行った学内改革に関して公に残したかったというものではないか。この部分は急に面白くないというか、正確に書こうというか突っ込まれないように書こうということで、まるで資料を読まされているような感じがしたのは残念だったけど。

 内容に関しては、子供時代については、空襲にあった東京の焼け野原で、金庫だけがポツン、ポツンと立っているというシュールな風景についての回想と、盲腸から腹膜炎を併発して一浪したあたりが印象に残っているかな。あと、「やっぱな」と思ったのが、カトリックの洗礼を受けていること。父親を亡くし、一時期、カトリックの施設に入っていた時に受けたという。結局、ここで初めて接したヨーロッパとの距離感を縮めようというか、最良の部分がどこから来ているのかということを確かめたい、ということが研究の大きなモチーフになっていると思う。

 大学生時代には進路で悩んでいたとき、上原専禄先生にローマ史をやるのなら、100巻以上ある浩瀚なパウリ-ヴィソヴァ編の『古代学百科事典』ぐいはざっと目を通しておく必要があるとカマされたあたりが雰囲気出ていた(p.78)。やっぱり、先生は出来そうな生徒が来たらこのぐらいカマして鼻を折るぐらいしないとダメだわな、みたいな。結局、阿部キン先生はドイツ騎士修道会を研究テーマにする。

 無学なもので全く知らなかったハインペルの本でも一冊ぐらいは読んでみるか、みたいなことは思って『人間とその現在―ヨーロッパの歴史意識』をさっそく注文。同じく西順蔵先生にも興味を持ったがいま出回っているのは中国近代思想のものが多く、結構、感動した竹林の士に関するようなものをいつか読みたいと思う(pp.126-129)。「礼は世俗に是認され、世俗から要求されるものだから、彼の孝心を礼とともに是認され要求されるものにしたくなかったからである」という引用は名文。また、後の阿部キン先生お得意の「世間」研究につながっていくと思う。つまり、竹林の士にヨーロッパ的な独立した個人を見た、みたいな。

 留学時代の回想は、どんな先生のも面白いが阿部キン先生のももちろん面白い。しかし、この本で個人的に一番面白く読んだのは、「日本の差別問題との出会い」以降の網野善彦さんとの交流と決裂あたり。同じ平凡社から『蒙古襲来』平凡社を出したばかりということで対談で会ったという網野との交流は深かったというが、どこか肌合いが合わなかったという感じが伝わってくる。その後、阿部キン先生は東宮御所に赴いて天皇と皇太子に差別問題に関して講義をしたというが、そのことに対して網野さんは「私なら絶対に行かない」「私なら教えて欲しかったら家に来るようにいうね」と答えたという(p.197)。このやりとり自体も面白かったが「網野氏が網野銀行の関係者だと知って学生時代に彼は家庭教師などをしたことがなかったのだと思い当たった、だから天皇を家に呼ぶなどという発想が出てくるのだろうと思った」というあたりは、阿部キン先生、そこまで書くの!と驚かされる。正直、後味が悪い。でも、言いたかったんだろうな。ということだが、お二人の蜜月時代の『中世の再発見―対談・市・贈与・宴会』も注文。

 あと、本当に読書量の少なさを思い知らされるのだが、グレーヴィッチは知らなかった。さっそく絶版となっている『歴史学の革新―「アナール」学派との対話 』を予約。1991年の初版だというのに…。平凡社はいろいろあったんだな…。マクロコスモス、ミクロコスモス論を知って「大塚史学に満足できなかった部分をグレーヴィッチによって満たされた思いであった」というのは、意外なライバル心に触れた思い。とにかくここらあたり(pp.188-203)は生臭くって面白い。

 阿部キン先生が学長になるというのも驚いたが、そこらあたりの事情がわかったのは面白かったけど、制度改革あたりはやっぱり退屈。だけど、これも今年のベスト5。やっぱり読みたくなる本が紹介されている本というのは素晴らしい。

...............

 期待して読んだ小河陽『パウロとペテロ』講談社メチエは途中で放り出してしまった…。ひょっとして今年のベストワンじゃないかと思っている『抗争する人間』今村仁司はまだ見つかっていない…。
本棚動かしたときにどこかに行っていまったわけだが、今回も、阿部キン先生が、ここの料理はまいったと書いていた中央公論社の山荘に関して、ここはたしか有島武郎が情死したところに近いんじゃないかな、みたいなのを思い出そうとして、そこら辺でロケしたアラーキーの写真文庫を探そうとしたんだけど、それもない…。悲しい…。しばらくこんな状態が続きそうだ。

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