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May 02, 2005

『時計職人とマルクス』

『時計職人とマルクス 第一インターナショナルにおける連合主義と集権主義』渡辺孝次、同文舘出版

 小田中先生の『フランス7つの謎』の中で紹介されていた本で、なんか妙にひかれて購入したのがこの本。GW中の旅行に持って行き読んだのですが、「妙にひかれた」原因がわかって納得。渡辺さんは故良知力先生のお弟子さんだったんですねぇ。良知先生の本は、これも小田中先生の『歴史学ってなんだ』で知った『青きドナウの乱痴気』ぐらいしか読んだことないんですがヘーゲル左派と初期マルクスの研究から、こういうお弟子さんが生まれて、新しく暖かい眼差しを19世紀のヨーロッパ近代史に向けてくれるというのは、本当にありがたいことだなぁ、と思う。

 この本は、ざっくり言って、これまでアナーキストであるバクーニンによる権謀術策を嫌ったマルクスとエンゲルスが、1871年のパリ・コミューン後に新しく発表した"各国の労働者党をインターナショナルが指導する"という構想を守るため、様々な理由をつけて72年に除名したことで第一インターが分裂、76年の解散につながるという定説を「マルクスらの中央集権的な構想を嫌ったのはスイスの時計職人であり、たまたまバクーニンらは歩調を合わせだけで、実際的な影響力はフランス語圏スイスの時計職人たちで組織されたジュラ支部の方が大きかった」ということを、あまりパッとしないデータにせよ気迫でまとめた本だ。

 最初の方で、ジュラ支部の重要人物であるギヨームについて、「本書で今後バクーニン以上に重要な人物になる」と紹介されているにもかかわらず、著述に尻切れトンボ感がつよいことや、ジュラ支部を中心に結成された反権威インターナショナルについて、その結成が第一インターの解散の直接的な原因となったことについては書かれているけど、ギヨームがなぜパリに去ったか、なぜすぐに解散せざるを得なかったのか、などについてもつっこみは不十分だと思う。

 しかし、そういった論文としての欠点を補ってあまりあるほどの新しい角度からの第一インター批判を読めるからこの本は傑作だと思う。マルクスらがバクーニンらを除名したハーグ大会を批判したジュラ支部のソンヴリエ回状に関して、いかなる権威も付与されない機関であるとみなされたマルクスらが牛耳る第一インターの総評議会がハーグ大会でバクーニンらを除名するためにさまざな工作を行ったことについて「もともと権威に対する巨大な抗議として発足したインターナショナルの基本理念に反することであった」「同胞に対して権力を持つモノが道徳者でありつづけることは不可能」(p.237)などの引用を交えながら紹介するあたりは、本書のひとつのピークだと思う。

 それにしても第一インターにはラサール主義者、空想的社会主義者、チャーティスト、労働組合主義者、アナーキストなどよく様々な人間がよく寄り集まったものだと思う。特にマルクスが住んでいたイギリス支部に関しては、当初、マルクスの直接指導が効いていたにもかかわらず、資本論に没頭するあまり影響力を失っていき、最終的には『フランスの内乱』などによるパリ・コミューン擁護論に恐怖して自由主義的労働組合指導者が脱退するなど、足元から組織が崩れていったことは定説にせよ痛ましい。やがてヨーロッパでも少数派となったマルクスらは、総評議会をなんとアメリカに移して、ゾルゲの遠隔操作による院政を目指すが、当然のごとく失敗。マルクスは第一インターを見限っていく、というあたりの視線も、なぜか両者に対して暖かく感じる。

 とにかく第一インターの内部に社会改良主義というか後の社会民主主義につながるというか「自由と連帯に基づく生産者グループの自由な連合体」の結成を目指した、しっかりしたグループあったということをキチンとアタマに納めることができたのはありがたかった。

 そして"地域が思想に与える影響"について書くpp.128-129あたりは、良知先生のお弟子さんならではの、イデオロギーが先行しすぎるマルクスに対する批判になっていると思う。にしても、エンゲルスというのは、こうした細かな研究が進めば進むほど、批判に耐えられなくなってくるな、と思う。まさかエンゲルスが地方自治をここまで批判しているとは思わなかった(p.41あたり)。まあ、時代の制約はあるにせよ、本当にエンゲルスは言わなくてもいいことを言い過ぎる人間だったな、と。

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Comments

アウェイ遠征レポートは?

Posted by: 小杉 | May 02, 2005 at 11:24 PM

お待たせいたしました(というほどのモノでもございませんが、ひとつ…)

Posted by: pata | May 03, 2005 at 08:33 AM

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