« さよならニコン | Main | EFレンズの選択に悩む… »

April 07, 2005

『フランス革命―歴史における劇薬』

french_rev


『フランス革命―歴史における劇薬』遅塚忠躬、岩波ジュニア新書

 いろいろ詳しくない分野がいっぱいあって、読書量の不足を思いしらされるワケだが、そんなもののひとつにヨーロッパ近代史がある。

 遅塚忠躬教授は『ロベスピエールとドリヴィエ―フランス革命の世界史的位置』東京大学出版会などの御著書があるこの分野では日本の第一人者だが、その遅塚さんが高校生向けにフランス革命とはどういう事件だったのか、また、それが今の日本にどういう意味をもっているのかを熱く語った本。『フランス7つの謎』で小田中直樹教授が推薦していた本なので、素早く購入。なんつうか、非常に素晴らしい読書体験をさせてもらった。遅塚さんはもう、功名を遂げて、改めて自分を誰かに対して証明する必要などない立場にある方だと思うが、そうなったからこそ、若い読者、もっと言えば序文で触れているような「青銅時代」の読者に一緒に考えよう、と渾身の力を込めて書いた本だと思う。高校の入学祝いにはピッタリなんじゃないかと思う。

 「歴史における劇薬」という副題も、なんとなく雰囲気でつけました、みたいなお手軽なもんじゃない。最初から最後まで、「フランス革命は人間精神の偉大な達成である一方で、数知れない尊い命を断頭台へと葬った暗い影を持つ歴史的な事件だった」「それは劇薬といっていいものだ」という問題意識に貫かれている。

 まとめの中で遅塚さんは、フランス革命においてあれだけの効果と痛みがともに生じたのは「それが89年の当初から民衆と農民の参加した複合革命だったからだ、と私は考えています」(p.160)。同じようなブルジョワ革命を経て近代国家となったイギリスと比べてみると「第一に、シギリス革命がおもに自由をめざし、フランス革命はおもに平等をめざしたこと、第二に、イギリス革命では大衆は脇役であり、フランス革命では大衆が主役だった」(p.161) いうトクヴィルの説を引用し、旧体制が早くから解体し貴族のブルジョワ化が進行していたイギリスではジェントリの主導の元で名誉革命が進められ大衆の出番がなかったのに対し、遅れていたフランスでは旧体制が強固で、ブルジョワは特権の誘惑(官職の購入)などによって貴族化したりしてフラついていた、と。それにイギリスのように産業資本の工場などに吸収されることのなかった貧しい手工業者や農民の大群があり、貴族、ブルジョワ、大衆の激突が生じて、劇薬ともいえるような展開をみせたのだ、としている。

 つまり、いったんはブルジョワが自由主義的貴族と組んで妥協的な改革路線で進んだフランス革命も(91年体制)も、諸外国からの干渉戦争と食糧不足が続く中で、ブルジョワ左派が大衆と手を組み、91年体制をクーデターによって打倒し、外国との戦争を強硬に進める一方で、反対派を納めるために公安委員会による恐怖政治を敷かなければならなくなった、ということになる。

 「イギリス革命は、リベラルな変革であった代わりに、デモクラシーの達成を先送りにしました。劇薬を服用したフランス革命は、デモクラテイックな変革であった代わりに恐怖政治に苦しみました。劇薬なしで『上から』の改革をした日本では『殖産興業』と『富国強兵』のかげで、基本的人権の保障がなおざりにされました。私たちが外国の歴史を学ぶのは、そういうプラスとマイナスを考慮して、わが日本の歴史を、傲慢にも卑屈にもならず、冷静に反省するためなのだと私は思います」(p.168)とした上で、ロベスピエールなど山岳派によるテロルによって三万五千~四万人が断頭台の露となって消えたが、貧しい農民や手工業者の生きる権利が高く掲げられたフランス革命の93年の段階があったからこそ、その生存権という考え方は、日本国憲法の第二十五条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条項にもつながっているのであり「現代日本の私たちは、あの恐怖政治の血まみれの手からの贈り物を受けているのです」(p.169)というまとめは感動的だ。

 『ロベスピエールとドリヴィエ』なども即購入。

 知り合いの子で高校に入学する子が二人いるので、さっそくプレゼントしようと思う。

|

« さよならニコン | Main | EFレンズの選択に悩む… »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/23829/3600062

Listed below are links to weblogs that reference 『フランス革命―歴史における劇薬』:

« さよならニコン | Main | EFレンズの選択に悩む… »