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April 19, 2005

『野垂れ死に』

notarejini_shuko

『野垂れ死に』藤沢秀行、新潮新書
 『禁じられた福音書―ナグ・ハマディ文書の解明』ペイゲルスの感想を書きたかったのだが、新刊のこれを読み始めたらとまらなくなってしまった。ご存じ、名誉棋聖、シューコー先生の聞き語り。奥様のモトさんの『勝負師の妻―囲碁棋士・藤沢秀行との五十年』を夫である秀行先生の方から語った本。

 秀行先生といえば、本妻以外に2人の女性に子供を産ませ、競輪・競馬にあけくれて数億円の借金をこさえて家を失い、アル中と戦いながら囲碁界の最高棋戦(最も賞金が高いから)である棋聖戦を六連覇して新しい家を建て、66歳で王座というタイトルを獲り、引退後は日本棋院から独立して免状を与える暴挙に出て破門されるが、弟子たちが幹部となることで破門をとかれ、三度のガンを克服して84歳で書をたしなむという、人生の超達人。

 まず感動したのは秀行先生のお得意のフレーズ「芸」について語っているところ。秀行先生は今でも毎日、棋譜を並べているというが、自分のタイトル戦の棋譜を並べているときに、「穴があったら入りたいほど恥ずかしくなるのは『勝ちたい』という自分のだらしなさが感じられるときだ。碁は正直だから、ある譜全体やある一手に、それは如実に表れる。隠すことはできない」「碁には、恐ろしいほど、人物が出る。個性、生き方、碁に対する姿勢など、その人のすべてが凝縮されて盤面に表われてしまう。それが譜となって後生に残るのだから、一局一局の勝った負けたで騒いでいる場合ではない」「碁は無限なり、個を立てよ」「勝ち負けという次元を超えた、<芸>とでも呼ぶべきもの」を目指すべきだとしている。素晴らしい。

 後は『勝負師の妻』でも描かれたハチャメチャな生活ぶりをアッケラカンと書いているところ。借金取りは土足であがりこんで来るは、秀行先生はオンナの家に泊まり続けでほとんど家にはかえらないわ、帰れば棋士仲間と飲んだくれて騒ぐわ、あげくに「妊娠した」という女が次から次へと現れるわ、という状態になって、さすがの奥様モトさんも一度は家を出て、新潟の実家に帰ったという。その日は冷たい雨が降る夜だったそうだが、実家の義母は帰ってきた娘を追い返す。そして震えながら駅で夜を明かしてモトさんは戻ってきたそうだ。

 なんつう修羅場だとは思うが、その時のことを「女房も偉いが、女房の母親も偉い。凄い思いをさせた張本人の私が感心している場合ではないが、女房が戻ってからも私の生活や態度はいっこうに変わらなかった」という秀行先生って…。

 自分の正確を「豪放磊落」ではなく「繊細暴走」であると冷静に自己認識しているのもスゴイと思う(p.81)。

 情報として面白かったのが、3度目のガン治療。通常は0.4という腫瘍マーカーが40という数値となって、とても助からないといわれた前立腺のガンを銀座の木原クリニックによるホルモン剤を服用する療法で治してしまったという話(p.27-28)。

 いろいろサービス満点。小さな悩みなど吹き飛ぶことうけあい。

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泣いた。不覚にも泣いてしまった。失格だ。「勝負師」藤沢秀行。今年、80歳。おおらかな性格で親分肌。若手棋士相手に「秀行塾」を開き、熱心に教えた。たびたび「秀行軍団」を率いて中・韓を訪れては、若手に稽古をつけたため、「日中・日韓逆転の戦犯」あつかいされた...... [Read More]

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