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April 04, 2005

『失踪日記』

disappearance_diary
『失踪日記』吾妻ひでお

 ギャグ漫画家は、ネタが切れると悲惨だというのは、あまりマンガの世界に詳しくない自分のような人間にも聞こえてくる噂であったが、吾妻ひでおさんがネタにつまって、連載をおっぽり出し、失踪。自殺未遂を行うが寝てしまいwその後ホームレスとなって過ごしていたというのは知らなかった。

 その後、警察に保護され、捜索願が出されていることが発覚して、家に戻るが、また原稿を落として失踪w。ホームレスとなるがアル中の手配師に配管工として働かないかと誘われてガテンな仕事につき、筋肉パンパンとなってそれなりに充実した毎日を過ごすが、その手配師にもらった自転車が盗難車wだということがわかり、再び警察につかまり、それがキッカケでまた捜索願の線から家族に連絡がいき、今度は家から配管工として働きに出ることになる。

 しかし、ヒョンなキッカケから会社を辞め、再び漫画家としての活動を開始するが、今度はアル中となって強制入院。この『失踪日記』はその精神病院で退院間近になったあたりで終わるが、なんつうか、もうネタ満載というか、充実しまくっているというか、明るい破滅型私小説というか、とにかく素晴らしい。まあるい線のややアウト・オブ・デートな漫画マンガした絵のタッチもこうした内容に合っている。

 つまらぬ家賃滞納でホームレスとなった松井計という戦争シミュレーションものの小説家が書いた『ホームレス作家』も吹っ切れたというか、それまでの殻を破った作品だったが、吾妻ひでおさんの『失踪日記』もそんな気がする。

 後書きを読むと、本当に悲惨なところ、シャレにならない部分は描いてないというが、それでもホームレス時代は十分悲惨だし、精神病院のアル中病棟も相当気が滅入る。しかし、そこで救いがあるのは、誰ともしゃべらない日々が続いて自分の分身と話すようになってしまったホームレス時代の状態から脱し(p.75)、配管工時代には性格がイヤな奴にしても話し相手はいるし、一緒に社内の昇格試験wを受ける元税理士で共産主義者の植下さんなど名脇役がどんどん出てくるようになること。また、アル中"仲間"のナベさん、スキンヘッドのK竹さんを従えて病棟を仕切るシスター(!)のT木さん、面倒見のいいサラサラヘアーのM田さんなどキャラ立ちしている人たちが本当に多くなる。

 ほとんど編集者ぐらいしか"他者"が出てこない売れっ子作家時代と比べると、なんと人生を切り結ぶ人たちが多くなることか。結局、こうした人たちとの出会いによって、吾妻さんはまた漫画家として立ち直り、こうした傑作を生んだのだと思う。

 えー、これまでのところ05書評年度において『宮沢喜一回顧録』と並んでNo.1候補。素晴らしい。

 あ、もう一言付け加えれば、飲酒問題に悩んでいる方にとっては、ややこれに比べればキレイだった中島らもさんの『今夜すべてのバーで』と並ぶ、アル中シュミレーションものとしても読むことをお勧めします。連続飲酒だけはやっちゃアカン…。

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Comments

こんにちは。

吾妻ひでおは人気絶頂の時から天才と言われてましたけどこれ見るとやっぱりすごいなあと思いますよね。以前の,たぶん最初の失踪の後かな,復帰してしばらく児童文学の挿絵とかの仕事してらしたんですが,その当時の絵には往時のパワーがなくていかにもリハビリ中という感じでした。ああ,このまま消えちゃうのはもったいないなあと思っていたら……それすらまだ序章だったんですねえ。

その後これだけ波乱の時代を経てなお画力は完全復活なんだからひたすらすごいなあと感じ入ります。こういう作品はpataさんの知性を刺激するかもしれませんが,「ななこSOS」みたいなふわふわした作品を愛でるっていう読書もいいもんですよ(^^)

Posted by: ALGOL | April 05, 2005 at 10:44 PM

私も「失踪日記」読みました
凄ぇー!!の一言
アル中病棟のパート2も楽しみなんですが、これって
何かの雑誌に今連載されてるんですかね?

Posted by: shu | April 07, 2005 at 04:43 PM

ALGOLさんshuさん、どーも

いやー、本当に純文学作品としても素晴らしいですよね。もっとも、そうした読み方はあまりよくないのかもしれませんが…

個人的にもアル中病棟に関しては、もっと書いてほしいと思います

Posted by: pata | April 07, 2005 at 06:14 PM

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