『フランス7つの謎』
『フランス7つの謎』小田中直樹、文春新書
『歴史学ってなんだ?』PHP新書で個人的に好感度抜群となった小田中直樹さんの新刊が出た。今回は版元を文藝春秋に変えて『フランス7つの謎』。
『歴史学ってなんだ?』は歴史に関するブックガイドみたいな感じで利用させてもらい、『動物裁判』池上俊一、『青きドナウの乱痴気』良知力、『路地裏の大英帝国』角山榮ほか編を読ませてもらった。今回も、さっそく第一インターナショナル時代のマルクスとアナキストというかサンディカリストたちとの論争を描く『時計職人とマルクス』渡辺孝次、『フランス革命』遅塚忠躬、『エリートのつくり方』柏倉康夫などを注文させてもらった。
小田中教授をなんで贔屓にするかといと、『歴史学ってなんだ?』の書評でも書いたことだけど、「オレがオレが」とつまらぬ新説を中心に資料をブチまけるような書き方をせずに、自分の主張は抑え気味にして、面白歴史本のブックガイドをしつつ、みなさんはどう考えますか?と控えめに問いかけるような姿勢が素晴らしいと思うから。
今回は、どんなことを考えているのかというと、フランス滞在中に感じた「なぜ政教分離をめぐって延々と議論が続くのか」「なぜいつでもどこでもストに出会うのか」「なぜ標識がバイリンガルなのか」「なぜマクドナルドを『解体』すると拍手喝采されるのか」「なぜアメリカを目の敵にするのか」「なぜ大学生がストライキをするのか」「なぜ美味しいフォーやクスクスが食べられるのか」という7つの疑問。それぞれの解答のサマリーはp.182-183に載っているが、なぜなんだろう、としなやかに考えている姿が各章から伝わってくるので、ここを本屋さんで立ち読みして興味を持ったら、全ての章に目を通してもらいたい。
そして、単にフランスの謎を解くだけでなく、ちゃんと日本の現実との対比というか、日本となぜ違うんだろう、というところまで必ず書いて終えているのもサービス満点。例えば政教分離の問題に関しては、フランスは「宗教は政治に口を出さない」という側面が強調されるに対して、日本では反対に「政治は宗教に口を出さない」ことが強調されるとして、そのワケを歴史から探っていく。直接の理由とすればフランスではフランス国民となるためには、ルールを受け入れることによってなるのであって、生まれたときから日本人である日本とは違う、と。どちらもルールであり、ルールである以上、必ずしも理想的に守られているわけではなけれども、フランスの場合は教会との闘争に勝った共和派が最終的に権力を握ったことが国民形成の原点であり、日本では織豊時代に形成された単一民族という神話に基づいているという違いがある、と。
『歴史学ってなんだ?』ではカーの著作などを紹介しつつ、歴史学がいったいどんなふうに役立つのかということを書いていたけど、『フランス7つの謎』では読者の興味をつなぐために日本との対比を行いつつ、答えのすべてを歴史の中に求める、という姿勢で書いている。最後には「現在は過去の上にできあがっているからです」(p.186)とまで書く。
しかし、小田中先生の教える東北大学あたりでも、ここまでかみ砕かなくては、歴史を学ぶ重要性ということにタカをくくっている学生が増えているのだろうか?個人的にも「歴史なんて」という言い方をする人たちが出てきてビックリするのだが、そういう人たちには小田中さんの『歴史学ってなんだ?』と『フランス7つの謎』を読ませるしかないと思う。
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