『私の異常な愛情』
『私の異常な愛情 不肖・宮嶋流 戦争映画の正しい観方』宮嶋茂樹、ぴあ
花粉症がひどく、コムズカシイ本は読めない。ということで、不肖・宮嶋に救ってもらう。去年の9月に出ていたらしいが気がつかなかった。六本木ABCはひょっとして不肖・宮嶋に冷たい?ま、いいけど。
戦争映画に関して女性誌に連載したものに大幅な加筆を加えたのがこの本。女性向けということを意識してか「戦争映画とは、単なるシネマでは断じてない。男の子は戦争映画を見て、規律、勇気、自己犠牲などという美徳を学ぶのである。ついでにハウツウ・コンバットも学ぶのである。そして一人前の男に成長していくのである」(p.7)、「世の女どもに告ぐ、ペット・コスメ・リゾート映画だけがあなた方の人生か?ノーガキこくな。気安く股開くな。キャリアのないヤツは、とっとと結婚してガキを生め」(p.88)と挑発的だ。
とはいっても、最初に紹介する作品が「もう全編、反戦平和のメッセージのオンパレード」という山本薩夫監督の『戦争と人間』シリーズというのだからバランスをとっているのかな。不肖・宮嶋は自衛隊ほどには旧軍を愛していないようだ。「二万人の死傷者を出したにもかかわらず、生き残った中隊長以上の前線指揮者に、師団長や辻参謀が次々と自決を強要し、満蒙の原野で荼毘に付される日本兵の場面でこの映画は終わる」と書いているし、このノモンハン作戦だけでなく無謀なインパール作戦をも指揮した辻正信に関しては「オノレの立てた無謀な作戦で何万にもの日本兵を死に追いやったのに、オノレはしっかり生き続け、戦後戦犯を免れ、しばらく行方が分からなかったと思っていたら、なにをとち狂ったのか国会議員となり、と思ったら、考え事があると東南アジアに出かけたまま、そのまま失踪。それっきりである」(p.22-23)と悪罵を投げつける。
『戦争と人間』シリーズに関しては、『プライベート・ライアン』で空冷式と水冷式の機関銃の説明をする場面でも、「敗走する日本兵の北大路欣也が渇きに耐えられず、日本軍の水冷式機銃の冷却管から水を抜き取り、ゴクゴク飲むシーンがある」(p.82)と触れている。さすがに銃に関しては詳しく、『プライベート・ライアン』でも、レーダー基地を襲う場面で、ドイツ軍にMG銃を撃たせるだけ打たして、銃身を替えるスキをつく、という作戦をとっている、と鑑賞のポイントを教えてくれる。また、聖書の一節を唱えながら次々とドイツ兵を狙撃していくジャクソン二等兵は左利き(というか他に出演している映画から利き目が左だと看破している!)のために、右利き用にできているボルトアクションがぎこちなく、それが最後の戦闘場面でのアセリまくる様子に、より真実味を与えているという分析は見事。まさに「あせりたくるぎこちないボルト操作にイライラしたもんである。なんちゅうシブイ設定や!!スピルバーグは客の心理状態をここまで読み切っていたんとは…おとろしいヤツである」(p.86)と改めて思った。
それと英軍のモントゴメリー将軍が功をあせったマーケット・ガーデン作戦を描いた『遠すぎた橋』での「アホな指揮官、敵より怖い」(p.96)というのは真実の言葉だ。それと相前後して戦われた『バルジ大作戦』で、ヒトラーがガソリン(ドイツ軍の戦車はディーゼルではなくガソリンが燃料)をケチッたために負けるドイツ軍の戦車隊長ヘスラー大佐に関しても「現場がいくら優秀かつ強力でも、その方向性を決める指導者がパーだと、皆コケるのである」(p.103)と賛辞を送っている。どこで読んだか忘れてしまったが、戦後の日本の経済成長は、旧軍と財閥のアホなトップどもがマッカーサーによって追放され、現場の中間管理職(旧軍でも下士官は優秀だったらしい)が経営権を持てるようになったからだ、という説もあるぐらいで、このことはいくら強調しても強調しすぎることはない。
24本紹介されている映画の中で15本観ていた。有名な作品を除いて、ぜひ個人的に観てもらいたいのはリチャード・ヴィドマークが制作・主演した『駆逐艦ベッドフォード作戦』。残念ながら今、単独でのDVDでは出ていないが、米ソ冷戦の一触即発ぶりを描いた素晴らしい作品なので、ぜひ。
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