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February 01, 2005

『カシアス』

kasias
『カシアス』沢木耕太郎、内藤利朗、スイッチ・パブリッシング

 内藤純一というプロボクシング日本ミドル級チャンピオンがいた。父親はアフリカ系アメリカ人の米兵、母親は日本人という家庭に生まれ、藤猛など多くの6人の世界チャンピオンを生んだトレーナーであるエディ・タウンゼントが、いままで見てきた選手の中で最も才能がある選手は誰かと問われたとき、内藤純一と答えたボクサーでもある。

 わたしの父親がボクシングファンだったということもあり、彼のファイトは何回もテレビで見た。パンチが強いタイプではなかったが、スピードのあるアウトボクシングは当時の日本人の最重量級であったミドル級にあって、ひとり異彩を放っていた。

 トントン拍子で出世街道を走っていた内藤純一が、頓挫するのは、日本タイトルを獲った後に、世界戦の布石として企画されたチャーリー・オースチンとの試合だった。これまで16戦全勝の内藤にとって初のドロー、しかも実質的には負け試合という内容で、リングで土下座してファンに誤っていた姿はいまでも鮮明に思い出せる。

 その後、かませ犬のような立場に落とされた内藤だったが、カシアス・クレイというモハメッド・アリの改名前の名前にあやかってカシアス内藤とつけられたリングネームをもらった彼は、本物のアリと、皇居前をロードワークするという栄誉にも恵まれている。

 たしか東スポの写真だったと思うが、アリとロードワークする内藤のあまりにの小ささに呆然とした記憶がある。日本のリングではあれだけ圧倒する肉体を誇っていた内藤純一が、アリと並ぶとふた回りも小さいのか、と。ジョー・フレージャーとの世界タイトル戦に負け、日本にはいわばドサ周りに来ていたアリなのに、その存在感の違いにはあっけにとられるしかなかった。

 ボクシングファン以外の人たちにとって内藤純一は沢木耕太郎さんの小説『一瞬の夏』のカシアス内藤だと思う。何回かのカムバックの後、東洋太平洋ミドル級チャンピオンの座に挑戦するも、ソウルで夢破れるまでの話だ。

 でも、夢はやぶれても人生は残る。内藤純一は、ディスコの店長からとび職、大工など職を変えつつ、奥さんを亡くすという悲劇にも遭いながら、娘さん二人を育て、再婚相手にも恵まれ、一時期はアトランタオリンピックにアマチュアボクサーとして出場することも真剣に考えることなどもしたけれど、いまは、最後の夢であるボクシングジム建設まであと一歩と迫ったところでトラブルに遭い、さらには自身の肉体が癌に冒されてしまった。

 この本は、内藤純一さんの近況を、かつて出版された『ラストファイト』に加筆する形で出された。いくばくかのギャランティがこの本が売れることによって、癌と戦う内藤さんに入るらしい。というより、そのことを目的に出版されたんだと思う。

 沢木さんはそのために2/18 19:00から六本木ABCでサイン会もやるという。

 『一瞬の夏』沢木耕太郎、『エディ』山本茂なんかもぜひ。

 ぼくは内藤純一という名前は本当に素晴らしい名前だと思う。父親が朝鮮戦争で戦死するという中で、アフリカ系アメリカ人とのハーフの子供をひとりで育て上げなければならなかった母親が「純一」と名づけたことを思うと、個人の名前というのは、尊厳の証であるということを改めて思い知らされる。

 これはエディ・タウンゼントさんも同じで、『一瞬の夏』だったと思うが、「内藤純一。素晴らしい名前。なんでカシアス内藤にしなければならないのかわからない」みたいなことを語っていたのを思い出す。

[追記]

こちらのエントリーによると、内藤純一さんは、見事、自分のジムを開業したようです。

 写真をみるとちょっとやつれているようだけど、頑張れ!

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ハーフものってことで、恥を捨てて29manさんに便乗。そのままスルーしょうと引き止められたのはこの肉体!!!!なんかジミヘンがボディビルしたような迫力。 「カシ... [Read More]

Tracked on February 27, 2005 at 04:56 PM

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