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February 11, 2005

『「男性自身」1963-1980 最後から二冊目の巻』

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『「男性自身」1963-1980 最後から二冊目の巻』山口瞳、河出書房新社

 『週刊新潮』で31年9ヵ月間、1614回続いたエッセイの単行本未収録作品を集めたのがこの本と『これで最後の巻「男性自身」1980-1986』。前にも書いたが、ようやく単行本をコンプリートして読み終えたと思ったら、未収録作品が出てきたというのは嬉しい限り。

 連載第一作の「鉄かぶと」はコンドームのことで、下ネタをよしとしなかった山口瞳さんが単行本への収録を見送ったのかもしれないが、それにしても第一作を収録しないとは思い切ったことをする。単行本第一作の『男性自身』には、山口さんが知り合いから「軽石」と呼ばれ、そのココロは一穴主義を標榜する山口さんは「カカトスルバカリ」であるという意味が込められているような作品もあり、戯作者的な側面をけっこう前面に出していたっけな、なんてことも思い出した。

 それと未収録作品で多かったのがプロ野球ネタ。元々、『男性自身』のコーナーはプロ野球のシーズン中の「今週のヒーロー」というコーナーの後に始まったということはあるが、なぜここまでプロ野球ネタの未収録作品が多いのかと考えると、それはネタに困ったときに書いたことがバレバレだったからではないか。

 「締切ということ」という作品は、月刊誌に掲載予定ではあるが、全く書けてない原稿の題名とタタキと称する「ふとしたことから知った男には妻子があった…」みたいな内容紹介を知らせろ、と編集に迫られる場面が延々と書かれている。なぜ題名とタタキが前に必要かというと、目次は二色で刷るから早目に印刷にまわさなければならなかったみたいな事情があったからなのだが、おそらく「男性自身」にも、こうしたことが多くあり、それをプロ野球ネタあるいは競馬ネタでしのいできた経緯があり、そうしたものを単行本に収録するのをためらったからではないかと考えるのだが、どんなもんだろう。

 読んでいて、忘れ去られている昭和30年代から40年代の世相を思い出させてくれたのは「月給が安い」。「粒々辛苦、大学を卒業して、二十年間、親のスネをかじったあげくの果てが、ジャリトラの十分の一、船方さんの五分の一、騎手(のりやく)さんの二十分の一といった額である」(p.95)として悲憤慷慨する話だ。確かに「大学は出たけれど」という状況は戦後も高度成長が終わる頃までは続いていたと思う。サラリーマンの給料が劇的に上がっていったのは1970年代の前半以降だ。

 健康のため酒、煙草をやめなければと思いつつも、小説を書くという無から有を生み出すような仕事をやっている限りは果たせないだろうというやりきれなさを吐露しながら

.........Quote...........

 これも変な言い方になるのだけれど、いつでも、私は、驀進せよと自分に言い聞かせることになる。思い悩んだ末の結論は、どうしても、そこへ行っていまう。

 たびたび『青べか物語』で気がひけるのであるが、「苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である」ということになってしまう。……まあ、このくらいに、いい気になっているのでなければ、この稼業は続けられない。
(p.172)
.........End of Quote..........

というあたりは、何回も同じようなことを読んだ記憶はあるが、好きなところだ。

 山口さんお得意の引用といえば、この「苦しみつつ、なおはたらけ、安住を求めるな、この世は巡礼である」という若き山本周五郎を絶望から救ったストリンドベリイの言葉と、八木重吉さんの「自分が この着物さえも脱いで 乞食のようになって 神の道にしたがわなくてもよいのか かんがえの末は必ずここへくる」という詩「神の道」ではないか。

 山口さんが戦後、通っていた「鎌倉アカデミア」という私大というか、塾みたいなのがあって、そこの和歌の先生を担当していた吉野秀雄さんの後妻に入ったのが、八木重吉に死別した八木富子さんだったというのは、山口さんを語る上では忘れてはいけないエピソードだと思う。

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