『正しくのんで、早く治そう』
『こころのくすり―正しくのんで、早く治そう 患者・家族のためのくすりと賢くつきあう本』計見一雄、保健同人社
『統合失調症あるいは精神分裂病 精神病学の虚実』講談社選書メチエで感心した計見一雄さんの本の中で、面白そうな内容のものを読んでみた。で、大正解。
何回も書くけど、精神分裂病=統合失調症(計見先生も書いているけど、精神科の先生ほど病名をいじるのが好きな人種はいないね)というのは、人間を理解する上で、とても重要な視点を与えてくれるんじゃないかと思って、いろんな本をずっと読んできたわけなんだけど、計見先生ほど、あっけらかんとした主張というのは見たことがなかった。その主張とは「精神分裂病=統合失調症は脳の機能障害という普通の病気である」ということ。障害となっているのは「運動を組み立ててまとまりのある行為をする能力」(p.152)であり、現在に集中させ、やろうと思った行動を分節化し、とにかく遣り通させる、という方法で"治してしまう"というものだ。分裂病というのはなにせ病名からして精神が分裂してしまうような恐ろしいものなので、とても治らないという通説は間違いである、という主張が長年の臨床経験に裏打ちされた説得力あふれる言葉で語られていたのが印象的だった。
もちろん、治療する際には、症状を抑えるために抗精神病薬などを使うわけで、それらにどのような種類があり、どのような働きをして、しかもどれがアップトゥーデート(副作用なく狙った効き目がちゃんと現れるもの)なのか、というのを容量別の写真も入れながら、分かりやすく書いている。もちろん、患者さんや家族なども安心だろうし、分裂病全体や躁鬱病に対する社会的偏見へのインフォームドコンセントになっているんじゃないかと思う。
また、この本では躁鬱病に関しても計見流のぶっちゃけ解釈に触れられたのは大きかった。それは「うつ病は体の病気である」(p.70)という言い切り方。
うつ病の人たちは、気ばかりあせって体がついていかないということを訴えるが、その「原因は体にあるのです」(p.71)という。具体的には睡眠―覚醒のサーカディアンリズムが崩れ、睡眠障害が起こり、脳の眠り(ノンレム睡眠)と体の眠り(レム睡眠)が別に時間に出現するようになり、「脳が覚めて体が眠っている状態」(p.77)になっていることだと。つまり、うつ状態の人は強い時差ボケがずっと続いているような状態なのだ、と。うつ状態の人に向かって「気をしっかり持て」とか「頑張れ」というのは絶対にアカンというのは、よく聞く話だったけど、その理由でやっと得心するものに出会えたなとも思った。
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