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December 26, 2004

『統合失調症あるいは精神分裂病』#2

libet2

 計見さんは、分裂病の妄想から聞こえてくるような"声"に「今この時を大事にしましょう」「現在に集中しましょう」というようなものはない、ということに注目する。幻覚、妄想のほとんどは過去への怨恨か、未来への憧憬であり、それによって現在がおろそかになり、脳があらぬ方向に彷徨ってしまうという。そして、現在とは脳が苦労してつくっているものなのだ、と(pp.248-249)。

さらに「実証された学説としてほぼ認められている」という1985年のリベの論文を引きながら、実行しようとする決心をするよりも前に、ニューロン発火が発生している、ということを丁寧に説明してくれる。

 リベの理論をざっくり説明すると、人間が自発的行為を実行する時、その意図を意識するのは脳が行動を実行してから0.5秒後であるというもの。

 図(p.249)のR点は、「実際に指か手関節かが動く時点(A点)よりも0.5秒前、実行しようという意図がはっかり自覚される時点(W点)が約0.2秒前」(p.250)であり、人間が何かをやろうと考え実行する経過の中に無意識的なプロセスがあり、それは本人には無自覚だという。これは潜在的活動電位(準備ポテンシャル)といい、フロイトの前意識にあてはまるのではないか、という。こうした行為のコントロールは、ストップしか効かず、例えばマラソンをやる人も、走り続ける意思が強いというよのも、はじめたことはなかなかやめられない、という面が強いのではないかと推論している。

 そして、「これをやろうかやるまいか、と考えている時に発生してくるのが、実は意識ではないか。別にそれほど上等のものじゃない」とした上で、「意識というのはかなり運動的なもので」「動くということと切り離して、意識とは何かということを考えるのは、まったく不毛ではないか」と語り、ブレンターノのいう意識の志向性というのも「行動についての意識として生じるものだ」と考えるとわかりやすいのではないか、とまで敷衍する。

 そしてヒトは「行動を準備するという形で現実をつくっていく」ものであり、ヒトは「ある行動を予測し、それに対応する計画的な絵図面を作る。それが可能なように、脳の中を統合することだ。それができなくなっているのが、多分統合失調症」だろということで、精神分裂病を統合失調症と呼び方を変えた件についても、言葉狩りは嫌いだが、それなりの理由がある、としている。

 ぼくたちは何かをするといった場合に、脳内で巧緻な行動のための計画をつくるが、その際に、余計な情報が入ってきては、つまらぬニューロンの発火が起こるから、それを抑えなければならない。そうしたことを無意識のうちにやっているのが前頭葉の四六野周辺で、それは「発生してから止める」というレベルではなくそもそも「発生させない」ぐらいの強烈なレギュレーションでやっているという。

 計見さんのまとめはこうなる。「ヒトにとっての現実とは、運動行為を脳内で準備するときに発生する世界の絵(リプリゼンテーション)である。その準備活動に従事する責任部位は大脳皮質前頭葉の四六野を中心とする部位で、準備(計画)作成のために、この部位が脳内の他部署を強力に統制して、世界の意味づけやそこで行おうとしている行動の持つ意味、社会的コンテキストその他の重要な情報をメモリーから調達する。行動計画を作成する機能が統合機能であり、これが不適切だったりバラバラであったりすると、合理的行動はできなくなる。その統合不全状態を特徴とする病気という意味では、『精神分裂病』を『統合失調症』と呼ぶことに、大きな誤りはない」(p.271)。

 計見さんは、ゴルフのイップスがなぜ発生するかもこの理論で説明している。ゴルフとはあらかじめ思い描いた球スジのボールが打てるようにする「未来に関するメンタル・イメージの作成とその実行のための訓練」としてとらえることができ、パットの時に手が震えて動かなくなるなどのイップスは「現在の動作を、未来の計画成就という目的に従属させて極度に集中する結果、いわば現在が麻痺してしまう」ことではないか、としてる。

 以前、小野伸二がNumberのインタビューあたりで、ボールがうまく蹴ることができなくなる"サッカー・イップス"にかかってしまったことがある、と語っていた。"サッカー・イップス"にかかったのが、攻撃的MFをやっていた時だったというのは、まさにそのポジションが「未来に関するメンタル・イメージの作成とその実行」を求められるためなんかじゃないかと、フト思った。

 あまりにも面白かったので、関連書籍として"Philosophy in the Flesh: The Embodied Mind and Its Challenge to Western Thought"George Lakoffを買って読むことにした(計見先生が訳した『肉体の哲学』の原本)。計見先生の『こころのくすり―正しくのんで、早く治そう 患者・家族のためのくすりと賢くつきあう本』保健同人社も購入。

 とにかく、なかなか面白かった。以下が目次。

第1回講義 決まり文句を疑う
第2回講義 精神医学に潜む虚妄
第3回講義 急性期医療と「陰性症状」
第4回講義 現実と妄想
第5回講義 妄想の発生と由来
第6回講義 運動が阻害されるということ
第7回講義 取り憑かれるということ
第8回講義 「自我」「自分」「主体」「自己」
第9回講義 何が分裂し、何が統合されるのか

 『徴候・記憶・外傷』の関連箇所はこちら。

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