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November 17, 2004

『内なる辺境』安部公房

『内なる辺境』安部公房、中公文庫

 けっこう安部公房さんは好きだったので、主要な作品はほとんど読んでいた気がしたけど、これとか知らなかったのは不覚。系統立てて読んでいたわけじゃないけど…。とにかく、六本木ABCの特設文庫コーナー「中公文庫のシブいヤツ」の棚でみつけた。

 日本人の作家は、小説が上手い人はいるし、エッセイを書かせたらなかなかやる人もいるけど、どっちも素晴らしいという人はそう多くはないと思う。

 安部公房さんは、小説が表芸というスタンスは変えなかったけど、どっちもOKという貴重なタイプだったと思う。エッセイ集では『砂漠の思想』講談社文芸文庫なんかは特に素晴らしかった。中学生ぐらいの時に夢中になって読んだ記憶がある。

 安部公房さんといえばどうしても新潮社というイメージだし、その新潮派の安部公房さんに少しでも書いてもらいたくって、中央公論社が長編エッセイを書く場を提供したのかな、と。安部さんのエッセイは、短く名人芸のようにまとめるエッセイではなく、自問自答を繰り返し、疑問が大きく展開していくような内容だから、短くは収まらない。

 『内なる辺境』は中央公論に掲載された「ミリタリィ・ルック」「異端のパスポート」「内なる辺境」という3つの長編エッセイからなっている。どうやって月刊誌の中央公論がこんな長いエッセイを載せるスペースを確保したのかしらないけど、1968年の8月号から11・12月号にかけて集中的に連載されている。しかし、3本で終わったということからも、あまり成功とはいえなかったんだと思う。

 そんな中でも一番よかったのは3本目の「内なる辺境」。ここではユダヤ的なもの、あるいはカフカ的なものに関して書いている。強調されているのは「ユダヤ的なもの」というのは「都市的なもの」と言い換え可能だということ。ユダヤ人が常に迫害されたのは、彼らが自分の「土地」を持たず、「本物の国民」にはなりえないからだ、みたいなことが書かれている。

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(ユダヤ人は)むろん「国民」であることは出来る。しかし、「本物の国民」にだけはどうしてもなりえない。その、本物という、わずかな皮膜にへだてられて、ユダヤ人、非ユダヤ人とが、あるとき決定的な対立関係に入るのだ。そして、その関係は、社会体制とは一応無関係に成り立つものらしい。すると、どうやら、本物というやつの正体は、領土という空間で代表される国家の条件ということになりそうだ。(p.74)

.........End of Quote...........

 ここらへんは国民国家の誕生とか、ユダヤの歴史の本格的な研究からすれば、まあ、単純すぎるきらいはあるけど、さすがに本質はついていると思うし、「しかし」以下の文章の切れ具合は素晴らしい。

「内なる辺境」のラストはこんな感じで終わっている。

.........Quote...........

大地をたたえる「祭り」は終わり、しかし新しい広場は、まだ暗い。国境を超えたゲバラは死んだし、国境を失ったベトナム人は戦火に身を焦がしている。だからといって、絶望するのはまだ早い。都市の広場が暗ければ、国境の闇はさらに深いはずなのだ、越境者に必要なのは何も光ばかりとは限るまい。(p.98-99)

.........End of Quote...........

 時代は感じさせるが、とにかく、素晴らしく硬質な文章。

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