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November 14, 2004

『いとしこいし 漫才の世界』

『いとしこいし 漫才の世界』喜味こいし、戸田学 岩波書店

 普段はあまり言葉に出して語らない感謝の気持ちを抱く対象というのは誰にでもあると思う。ぼくにとって「いとしこいし」略して「いとこい」師匠たちへの気持ちも、そんなもののひとつだ。

 子供の頃に毎週みていたテレビ番組「がっちり買いまショウ」での名司会ぶりや、NHKなどで放送された漫才の数々は、多くの東京人にとっての、関西弁とのファーストコンタクトだったのではないだろうか。この本は、そんな「いとこい」漫才へのオマージュを集めると同時に、「いとこい」の歩み、名作選で構成されている。雑多な構成というところが、こんご、もしかしたら始まるかもしれない「いとこい」研究の裾野の広さが予感されるかもしれない。岩波はなかなかやる。

 驚いたのは、ご兄弟はお二人とも関東の生まれであること。父親は長野県出身の元警察官で、いとしさんは横浜、こいしさんは川越で生まれている。その後、旅の一座などに加わったりしているうちに、兄弟漫才を結成、様々な紆余曲折はあるものの、売れっ子になっていく。お二人の歩みを読んでいると、どこかに書いてあったが、決して自分たちが一番になろうとせず、かといって、わき道にもそれない「二番手の王道」を歩んできた良さがあらわれている。それが下ネタなどをやらない、「まるで東宝映画のような、都会的で洗練されたいとこい漫才」(p.45)を生んだのだと思う。

 一番、面白かったのは、やはり「名作選」。感心したのが「つかみ」の出だし。

いと わが国が代表するあの新幹線ね。
こい あ、はいはいはい。
「交通巡査」(p.95)

いと スポーツにもいろいろあるわね。
こい まァ、日本でスポーツというと国技ではお相撲か。
「お笑い姿三四郎」(p.124)

いと 考えてみたら近ごろの子どもと昔の子どもとは、子どもの育て方が違う。
こい まあ、いろんなものが…、遊び道具ひとつでも違うわ。
「ポンポン講談」(p.134)

いと ちょっと頼みたいことがあるねんけどな。
こい ほう、ぼくにお頼みがあるわけ。
「こいしさん、こいしさん」(p.157)

いと 機械文明の世の中やね。
こい このごろ機械が発達しとるからね。
「もしもし鈴木さん」(p.168)

いと 近ごろはなんか親と子の対話というのがないらしいね。
こい まァ、このごろ、親子の断絶なんてよく言うわな。
「親子どんぶり」(p.178)

いと 実はね、うちの娘がね、いよいよ来月、嫁に行くことになりましてね。
こい あらあら、君んとこのお嬢ちゃん。
「花嫁の父」(p.182)

いと 食べもんにもやっぱり好き嫌いはあるわね?
こい そら、好き嫌いはある。
「ジンギスカン料理」(p.216)

いと 実はね、ぼくもそろそろ老後のこと考えなイカンと思てね。分かる?つまり、これから歳とったあとのことを考えなイカンなァと。
こい 老後のこと考えんでも、今、老後やないか。
「迷い犬探してます」(p.232)

いと 君にね、ちょっと報告したいことがあるねんけどね。
こい ええ、報告とは?
「ファーストフード初体験」(p.242)

いと このごろ、どういうんかな食事のメニューでもテレビでボォーンと報道してくれる。
こい ああ、テレビで見せてくれる。
「わが家の湾岸戦争」(p.252)

いと われわれの年代になると、やっぱり、洋風といおうか和風といおうか、どっちのほうをとるかね。
こい やっぱり、われわれの年代になると古いかしらんけど、洋風じゃなしに和風のほうやね。
「つかみ集」(p.256)

いと 子どもというもんはね、なんか知らんけど、休みになると「どっかへ遊びに行こう!遊びにいこう!」とよく言うもんやね。
こい ええ、よう言うねェー。
「同」(p.256)

 キリがないのでやめるが、どれもこれもスッと入っていける。舞台の上で、「夢路いとしです!」「喜味こいしです!」「ふたりあわせて、いとしこいしでーす!」みたいな前フリなしにスッと入っていける存在感みたいなのもスゴイと思うが、文章を書く上でも、いとこいのお二人の名作集を読ませてもらって、スッと入っていかなアカンと改めて教えられた気がする。それと、ごく少数の人に語りかけるような語り口。これは重要だと思う。

 とにかく、いとしさんのご冥福と、こいしさんがいつまでも元気で活躍されることをお祈りします。大好きでした。ありがとうございました。

itokoi.bmp

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Comments

ちょっと、この本読みますです。
ご紹介ありがとうございます。

いとしこいしをとりあげてくれるなんて、なんだか嬉しくて、直感でコメントしてます。
(普段も、推敲もありませんが)

昨年のはじめだったか、健在のときに見た正月の漫才で、初笑いした「生きてるときがニワトリ、死んだら戒名がかしわ」というくだりは、絶品でした。
おもろい。本当に。

西の地方(かつ関西文化圏)で生まれ育った自分にとって、話芸のおもしろさを、改めて再認識したんです。
その矢先になくなられて、もう少し意識して見ていればよかったと悔やみました。
幼少の頃、意識せず、それこそ、日常だったので、威勢のよさそうなコンビばかり見ていましたが、いまさらながら悔やんでます。ライブでもっと体感していればと。

ただ、刷り込まれた記憶、体験などでこのよさがわかることができたこと自体は、西の地方に生まれ育って、よかったかなと思ってます。

まったく、よさを感じてくれないような人間もいますから。

Posted by: bard | November 14, 2004 at 05:47 PM

どーも。それは「ジンギスカン料理」ですね。本から引用します。

こい 生きてる間の名前がニワトリ、死んだら戒名がかしわ。
いと かしわいうのはニワトリの戒名か、あれは。
こい そら、死んだら戒名つくやないか!
いと そら、知らんかった。
こい だから生きている間がニワトリで、死んだら戒名がかしわ。
いと 宗旨はなんか?
こい 知らん!ニワトリに宗旨があるかい!

なんて感じで。ただし、「ジンギスカン料理」の作者である西村博氏は現在消息不明とのこと…。まァ、いろいろありますわな…。

Posted by: pata | November 14, 2004 at 06:43 PM

この本、値段に負けず、すばらしい本ですよね。

お恥ずかしい話ですが、高校卒業ちかくのころ、まったく大学という選択を考えずにいたのですが、三者面談がありまして、「いったいおまえ進路どうするんだ」と、先生と親に言われたぼくは、「いとこいのような漫才師になる」と、わけのわからないことを口走ったのであります。結局、その場でみっちりシボラレ、大学に進むことになりましたが、懐かしい想い出です。同窓会のとき、先生がそのことを覚えており、ふたりで笑いました。

いとこい漫才のない正月、さびしいですね。

Posted by: 退屈男 | November 30, 2004 at 08:46 PM

退屈男さん、ありがとうございます。

染之介・染太郎師匠たちといい、お正月が本当に寂しくなりました…

Posted by: pata | November 30, 2004 at 11:56 PM

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