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November 30, 2004

『ディナモ ナチスに消されたフットボーラー』

ちょっとしたヨーロピアン・フットボールのファンならば、ナチス・ドイツの占領下で行われたディナモ・キエフ対ドイツの試合で、負けることを強要されたディナモの選手たちが命令に従わずに勝利したため、ユニフォームを着たまま銃殺された、という「死の試合」のことは聞いたことがあると思う。ペレ、ボビー・ムーア、アルディレスなども出演したジョン・ヒューストン監督の『勝利への脱出』1981も、この試合がモチーフだった。

 最初にこの話を聞いたときには、すごいヤツらもいるもんだな、と感動したが、実はソ連のプロパガンダだったんだ、みたいな情報が入ってくると、気持ちは変わってくる。『ディナモ・フットボール』宇都宮徹壱でも、ディナモ・キエフの写真集について「ナチス・ドイツの侵攻の際にディナモの選手が銃殺された悲劇(ソヴィエト政権のプロパガンダであったという説もある)」みたいなあいまいな書き方しかしていないし(こんなんでみすず書房の編集がダメ出ししなかったのは不思議だが…)、やがて毎日のフットボールの情報洪水に興味も流されてしまっていた。

 まあ、91年のソ連崩壊までは、正しい情報がとりにくかったというのはわかるけど、もうすこしまとまった情報がないのかな、と思っていたら『ディナモ ナチスに消されたフットボーラー』アンディ・ドゥーガン、千葉茂樹訳が出た。

 結論からいえばなかなか面白かった。一気に読めような爽快な話ではないし、ナチスに対抗する人海戦術的な壮絶な戦闘シーンには気が滅入ったりしたが、初めて「だいたい、こんなことだったのか」ということがわかり、スッキリした感じ。

 どんなものだったかというと、1941年、キエフをナチスが占領した際に、一兵卒として戦っていたディナモキエフの選手たちは、ズダボロの状態にあった、と。それを見かねた巨大パン工場(第三工場という名前のなんとも味もそっけもないボルシェビキ的な名前!)の工場長が、寝る場所と練習できる中庭を与え、キャプテンだったキーパーのトゥルセヴッチを中心に選手が集まりだし、ライバルのロコモティブなどの選手も加わった「FC スタート」というチームを結成。1942年夏、ナチスが住民懐柔のために行った、ウクライナの民族主義者のチーム(親ナチス)との親善試合に快勝しただけでなく、やがてハンガリーなどのナチス友好国軍のチームも破ってしまい、占領に苦しむウクライナの人々は熱狂。アーリア民族の優秀性を見せつけなければ、とあせったナチス側は、PSGというドイツ軍のチームを戦わせるが、これにも6-0で圧勝。これではいかんとさらにあせったナチスは「空におけるヒトラーの輝ける騎士たち」(p.153)という位置づけの空軍チーム「フラッケルフ」を呼んでくるが、これも5-1で圧勝。

 そして、3日後の8月9日にリベンジマッチとして行われたのが「死の試合」だった。

 ナチス側は審判にSSを起用。このSSは試合前のロッカーで選手に「ハイル・ヒトラー」の挨拶をするよう強要するが、ディナモたちはロッカールームでの話し合いでこれを拒否。ディナモたちはれこれより前の1938年、チームメイトをNKVD(スターリンの秘密警察)に売り渡すことを断固拒否したのだが、そうした同じような「チーム・スピリットを見せつけた」(p.167)のだったというあたりもカッコ良すぎる。

 スタジアムにあらわれたディナモたちはハイル・ヒトラーの代わりに、ソ連の「フィツカルト・ウラー」(直訳では肉体の文化だが、意味はスポーツ万歳)で観客に応え、前半を3-1で折り返す。ハーフタイムには、またドイツ人がやってきて「皆さんは勝つことが許されないことを理解せねばなりません」と説得するが、それも拒否。大量点でドイツを辱めることはしなかったものの、5-3で勝利してしまう。

 その後、ディナモたちを中心としたFCスタートはもう一回、地元のウクライナ民族主義者たちのチームとの試合を許されるが、その後、SSはディナモたちを逮捕し、死の収容所に送る。ショスターコーヴッチの交響曲第15番の主題にもなっている虐殺の谷、バービ・ヤールに近いシレッツのキャンプに送られた選手たちのうち、1人はNKDVの熱心なメンバーであったことが発覚して即銃殺。そして、スターリングラードの戦いで敗北した日、アタマにきた所長がGKトゥルセヴッチなど3人を銃殺した、というのがすべての真相のようだ。

 ディナモに栄光あれ!

DINAMO.jpg

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