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October 15, 2004

『刑法三九条は削除せよ!是か非か』

刑法三九条は削除せよ!是か非か』滝川一廣ほか、洋泉社新書y

 扇情的な題名の洋泉社新書の本を手にとった理由はなぜかこの新書シリーズで気に入られている滝川一廣さんの論文というか小論が収められているから。良書である『「こころ」はどこで壊れるか』(2001年、洋泉社新書y)、『「こころ」はだれが壊すのか』(2003年、洋泉社新書y)ともに短い見解しか書かれていないが、この人なかなかいいです。

 ご自分でも「私が精神科医になろうと教室に入ったときのお師匠さんの一人は、皆さんもお名前をご存知でしょうが、木村敏さんですね。木村先生が教授になられたばかりのときでした。そのとき助教授に来られたのが中井久夫先生です。それから今は京大におられる山中康裕先生、臨床に徹して開業しておられる大橋一恵先生が先輩としておられました。この方は土居健郎さんの直弟子ですね。いまにして思えば、考えられないようなそうそうたるメンバーだったのです」と述べているように、滝川一廣さんは木村敏・中井久夫の系譜を継ぐ臨床精神科医。

 これまで青少年の問題などでも冷静というだけでなく、周りを静めるような発言をしてきた滝川さんだが、今回の新書でも、他の書き手が刑法三九条について勝手な立場から煽るような発言を繰り返す中、滝川さんだけが、静かに読者に語りかけてくる。「精神が病むというのは、あなたの問題でもあるんですよ」と。

 精神病患者にも裁判を受ける権利があるからなど、新奇な意見は書き散らすけど、ちっとも問題に肉薄しているとは思えないような他の書き手と違って、滝川さんは分裂病の患者は全人口の0.8%であり、確かに確率として低いが、まだ「自分にも降りかかる可能性はある」として、もしも病棟に入れられた場合のことを考えれば、十分なケアを受けたいと思うような確率だとしている。では逆に100人にひとりの分裂病患者が起こす凶悪犯罪の確率はどうかと考えると、ほぼ天文学的に小さな数字になるとして「社会全体としてどういうシステムが望ましいかを考えるとき、例外事態への対応から先に進めては誤る(全体としては不合理がます)」と明快に 「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」という刑法三九条の有意性を強調する(p.166)。

 また、分裂病患者らしき者が裁判を受けた例では、20人中15人が有罪判決を受けており、特に二度目の場合にはほぼお目こぼしはないなどの司法側の社会的判断がすでにある、ということも書いている(p.185)。さらには、心神喪失または心神耗弱者とされた者の再犯率をみた場合、「定職、定住所、家族、援助者」のある、なしで比べてみると圧倒的に社会的ケアのない人たちの再犯率が高いことも立証している(p.186)。つまり、分裂病そのものよりも、ケアされないことの方がはるかに問題なのだ、と。

 そして人間とは報復感情、復讐心、うらみを持つ存在で、気が済むことを求めてやまないところはあるけれども、「目には目を」の社会原則が建設的な役割を果たして人々に幸福をもたらしたことはなく、寛容の精神からではなく、現実主義として刑法三九条の撤廃はナンセンスだとしている。そして「精神病患者の多くは実際には加害者になるよりも、被害者になることが多い人たちである」(p.193)と小論を結ぶ。
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