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October 23, 2004

『グノーシス 古代キリスト教の異端思想』#3

 ちょっと細かくなりすぎたから、後は飛ばす。第三章の「バシレイデース」のキモイところは、プトレマイオスが至高神からの下方展開によって説明していた宇宙の成立を、下から上への上昇という動きで説明しようとしている点で、その上昇運動をたった一度きりの原初的な種まき(まるでバッグバンをもたらしいゆらぎのような!)に求めるだけという、より純粋なアイデアに昇華されていることがわかる(p.98)。

また、デミウルゴスというのは「ものづくりための職人」という意味だというのは知らなかったな(p.109)。あと、キリスト教神学では、プロテスタントもカトリックも「無からの創造」というドグマを主張しているけど、聖書の中で唯一、無からの創造を記しているのは、カトリックは聖書として使っているけどプロテスタントは聖書から外している『第二マカバイ記』における殉教物語。これはプロテスタントも純粋そうな割には実はご都合主義であるという微笑ましい(?)話なんだけど、その『第二マカバイ記』の殉教物語は「無からの創造が死者の復活とパラレルに扱われている」という指摘もなるほどな、と。

 第四章の「マルキオン」は意外。だいたいマルキオンって有名な異端だけどグノーシスなの?というような疑問を持つ人も多いとは思うが、劣等的な専制君主としての創造神から、全く関係のない神が人間が救われるという考え方の構造はやはりグノーシスであるし、船主であったマルキオンが各地を旅する間に、グノーシスの思想から影響を受けたと考えるのが方向性として正しい、という(p.142)。つまり、筒井さんはここに至って、普遍的な方向性を持つものとしてグノーシスという考え方のパターンをとらえよう、と教えてくれているわけだ。そして、マルキオンが考えていた人間とは縁もゆかりもない「異邦の神」が一方的に人間を救ってくれるという神話は、「いやし系のメッセージ」として共感できるとしている(p.146)。こんなところなんかいいなぁ。やっぱりクリスチャンが多いだろうと思われるグノーシス研究者なんかは、ここまでは思い切ったことは書けなかったんだと思う。でも、筒井さんは軽くジャンプしてしまった、みたいな。

 ちなみに、これもご存知の方はご存知すぎる話ではあるけれど、マルキオンが自分の主催する教会でキリスト教世界で初めて「これが聖書ね」と文書をセットで指定したのにあわてて、正統派のキリスト教会があわてて文書結集していまの新約聖書を確定したというのは有名。

 第五章「グノーシスの歴史」では、グノーシス研究の国際会議による最新の定義が紹介されている。それは1)反宇宙的二元論2)人間の内部に「神的火花」「本来的自己」が存在するという確信3)人間に事故の本質を認識される救済啓示者の存在-を満たしているものをグノーシス主義と呼ぼうというもので、それはキリスト教グノーシスには限らずイランの宗教や、オルフェウス=ピタゴラス教にも見出せる、と。いや今は「むしろグノーシス主義はキリスト教から独立した宗教現象であった」ということで一致しているという(p.192)。

 とにかく得られる知識が満載の書。やっぱり今年のナンバーワンはこれかな。さらに興味のある方はこんな本もどーぞ。『グノーシス―古代末期の一宗教の本質と歴史』クルトルドルフ著、大貫隆、筒井賢治ほか訳。しかし、岩波はナグ・ハマディ文書全4巻だけじゃなくって、いろいろと貢献しているなぁ。
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