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September 19, 2004

『ねじまき鳥クロニクル』

[村上作品に対する忠実でない読者の立場]
 大学時代の友達もADを読んで感想を書いているけど、なんとなく、村上春樹のものが読みたくなり、最高傑作だと思っている『ねじまき鳥クロニクル』を一気に再読した。ぼくは村上春樹の忠実な読者というわけではなく、長編では『風の歌を聴け』や『1973年のピンボール』は話題になっていたからライブで読んだけど、大して感心しなかったし、その次の『羊をめぐる冒険』はなかなか進歩したと思ったけど、次の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』あたりなんかは「メディアに毒されすぎ」とか思って敬遠してしまったことを思い出す。

 記憶違いかもしれないけど、ベン・ジョンスンというジョン・フォードの西部劇に出てくる俳優で、乗馬シーンは世界一美しいといわれていた俳優さんがいて、その人がピーター・ボクダノヴッチ監督の『ラスト・ショー』で復活したんだけど、村上春樹の主人公が「ゆっくりとベン・ジョンスンの乗馬シーンを思い出した」みたいな独白があって、その時点でもう読み進めなくなったことがあった。なんかムリしすぎ、みたいな感じがして。

 次の『ノルウェイの森』は素晴らしいと思ったけど、それは『蛍・納屋を焼く・その他の短編』に収められている元ネタの『蛍』が好きだったからで、当時は「村上春樹はセンチメンタルな小説はいいけど、カッコつけすぎなのは読めない」とか周りの人たちと議論しては顰蹙をかっていたことがあった。その後も『ダンス・ダンス・ダンス』なんかにもそんな箇所が見つかり、しばらく読んではいなかったんだけど『海辺のカフカ』がよかったものだから、『ねじまき鳥クロニクル』を読んでみたらぶっ飛んだ、というのが村上作品に対するお付き合いの仕方だった。

[村上ワールドのパラレル性]
 『アフター・ダーク』には『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる、記憶の断片を大切にして生きていけとか、ゆっくり歩いてたくさん水を飲めみたいな表現を、そのまま自分で引用しているところがあって気にかかっていたというので読み返したわけだが、よく考えるとそもそも『ねじまき鳥クロニクル』に出てくるねじまき鳥や加納マルタ、クレタ姉妹なんかも昔の短編に出てきた使いまわしのキャラだ。また、『ねじまき鳥クロニクル』にも出てくる夢の中で次元がズレてしまうというような村上ワールドの世界観なども改めて堪能できた。

 そういえば『ノルウェイの森』にも地図にしか興味のないキレイ好きの学生が出てくるし、『羊をめぐる冒険』などにもたびたび右翼が登場するのも、なんというか村上作品というのは、ひとつの大きなパラレルワールドで、同じような物語を別々の視点と手法で読ませられているのかな、とも思ったりした。まあ、そんなことをいえば、最初の長編は鼠三部作だし…。

 それにしても、ADのタカハシ君の語る『ある愛の詩』のメチャクチャなストーリーというのはどういう意味なんだろう。これには、作中作の『ねじまき鳥クロニクル』における間宮中尉の手紙の情報と、ナツメグがシナモンに語ってやる物語が微妙に変化して神話的クロニクルになっていくような話とのパラレルワールド性もそうだし、そんなことを言えば、村上春樹の小説は、すべて表の世界と裏の世界という2つの世界に分かれて物語が進行する構造を持っているともいえる。それも単に生と死の世界というのではなく、よく村上春樹自身も書いているように「そこにあるものと失ったもの」とも考えられる。そういった意味でも、常に物事をキチンとあったままに正確に戻すことで秩序を保とうとしているシナモンの存在は象徴的だ。

[解体されていく意味]
 一読すると「一人の人間を本当に理解することができるのか」が最も重要なテーマだという感じもするが、そうした中での「意味」を求めようとするトオルの闘いはその意味を喪失している感じもするし、本当に妻クミコを取り戻そうとしたいのか、というのもわからなくなる。

 しかし、『ねじまき鳥クロニクル』の構成の大きさと、それがフォーカスされていくラストまでの着実な歩みというのは本当に村上春樹の小説家としての力量のすごさを感じさせてくれる。村上春樹の新作が原語で読めるというのは、本当に日本に生きている特権のひとつだと思う。

 ということで、これまで食わず嫌いをしていた村上作品をとりあえず読もうと思ってAmazonすることに。なんといってもマーケットプレイス(早い話が古本屋)なら『ダンス・ダンス・ダンス』なんて1冊20円だもんね。送料入れても文庫本を買うより、よっぽど安い。
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