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August 10, 2004

讃岐饂飩巡礼紀 その3

讃岐富士の中村
中村 綾歌郡飯山町西坂元1373-3 0877-98-4818
忘れもしない2000年6月24日、モグモグGOMBOの『奥深きさぬきうどんの世界!』で紹介された中村には一瞬で魂を抜かれた。納屋のようなところで無愛想なにいちゃんが黙々と麺を打ち、客は勝手に湯切りやだしかけをして、カネを払って帰っていく。そしてもちろん、有名な客がネギを取りに裏の畑に行く場面も紹介されていた。聖典『恐るべきさぬきうどん』(前掲書)でも、「お前な、ねぎは裏の畑やぞ」(p.88)という団員の驚きが紹介されている。以来、中村は「ねぎ取りの店」として一躍、有名になった。放送後、けっこう会社なんかでも話題になったのを覚えている。そして、我がココロにも中村の名前は刻み付けられた。もう、客が多すぎて整理しきれないからねぎ取りはやらせてくれないそうだが、それでもねぎを刻むことはできるという。うどん巡礼を志す者ならば、誰でも一度は「中村でねぎを取るか、せめて刻みたい」と思うのではないだろうか。
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しかし、うどんめぐりは「参加する旅」なんだなとしみじみ思う。単にうどんを喰うだけでなく、湯を切ったり、だしかけたり、ネギを刻んだり、大根やしょうがをおろしたり、丼を返すことまで行わなくてはならない体験型アドベンチャーなのだ。

本当は一筆書きルート上では、谷川からは宮武~中村とまわった方がいいのだが、中村は2時で仕舞いとなる。ならば、多少、逆まわりにはなるが、谷川米穀店から中村に向かってもらう。中村に着いたのは12:30ぐらいだった。谷川を出たのが11:50だから40分ちょっとかかったことになる。山深いところから降りてきて(谷川米穀店の近くの橋には標高312.5mと表示されていた)、讃岐富士がだんだん大きくなっていくのを目の当たりにするようなドライブは最高だった。その讃岐富士の麓に中村はあるのだ。四国は平野にポツンとオムスビ型の山が鎮座するみたいな景色がけっこうあって、それがなんともいえないのだが、中村ではその讃岐富士をながめながらうどんをすすれるのである。これを至福といわずに何を至福といえばいいのか…。
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中村も込んでいた。谷川で見かけた客も並んでいる。みんな「うどんめぐり」でまわっているのだろう。待っている間に「裏の畑」をしっかり激写。感動でファインダーが曇る。それにしても、モグモグGOMBOで見たような納屋のような風情からはすっかりキレイになっている。うどん評論家でもある運転手Sさん曰く「屋根には瓦を葺いて、土壁も新しく塗りよった」とのこと。いよいよのれんをくぐる段になると、やたら入り口が混雑しているのがわかる。われ先に入ろうとする客、丼を返そうとする客、ねぎを刻もうとする客が入り乱れているからだ。その喧騒の中、横で丼を洗っているおはばからひったくるように器を奪いうどんを投入するおばばがいる。このおばばがどうやら注文を聞くらしい。とはいっても「いくつ?」しかいわれない。「1個」といったら丼の中に1束入れてくれるだけ。ひやひやならそのまま勝手に冷たいダシや醤油をかけて食べればいいし、あつあつならテボに入れて釜の湯で温めてから温かいダシをかけてテンプラなんかを乗せればいい。あ、もちろんねぎを刻んで入れてもいいし、生姜をすって入れてもいい。昔は「すんません2つください」と注文しても「それ」とだけ言われて、客がセイロから麺も手づかみで取らなければならなかったらしい。それからすると、大分サービス面では改善されているが、とにかく、セルフの極北のような店なのである。

とにかく、そうやって丼の中に自分の世界を創造したら、麺を打っている無愛想な男の人の前に行き、カネを払う。この男の人が主人である。実兄がやっている丸亀の中村も繁盛店らしいが、そこの主人は愛想がいいらしい。運転手Sさんも「なんで兄弟であそこまで性格が違うのかってみんなで話して笑いよるんですわ」とのこと。しかし、無愛想な方が瓦を葺いて、新しく壁も塗り直せるのだから、世の中わらない。
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アタシはゲソ天のあつあつ、愚妹はひやひやの卵入り。合わせて350円。あつあつにしたのはテボに麺を入れて温めるという作業をやりたかったから。モグモグGOMBOから3年、ようやく味わうことのできた麺は、なんとスムースなことか。なんぼでも入る。いや、うどんが入りたがるような錯覚さえおぼえる。うどんの70%は水分だというが、これは人間の体もおなじこと。成分が似ているから、なんぼでも入るのか。いや、スムースさの極地を目指した中村のうどんだから入るのか。それはわからないが、とにかくノド越し良くうどんが吸い込まれていく。半分で妹と交換。こちらも卵でコーティングされることによってコシを残した柔らかさがより強調されている。

納屋の隣から丼を返しに行くと、屋根越しに見える讃岐富士が「うまかったろ」と語りかけてくれるようだった。
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宮武標準
宮武 仲多度郡琴平町上櫛梨1050 0877-75-0576
なかむらを出たのが11:50、ちょっと逆戻りする感じなのだが宮武を目指す。開けた田園地帯を走る道路沿いのちょっとだけ奥まったところにあるのが宮武。あっちゅう間に13:00には到着した。それにしても1時をすぎているにも関わらず、行列がすごい。店の前には待っている人たちのために、木製の長いベンチが3列置かれているが、そこからはみ出た人たちが、20mぐらい列をつくっている。シュチエーシュン的には、これまで行った店の中では一番フツー。分類的にも製麺所ではなく、かろうじて一般店に入る店だ。

もうこれで4件目。なんつうか慣れた感じで余裕しゃくしゃくで待っていると、「ベンチの前の方、2列目まで入ってください」とおばちゃんが店から顔を出して仕切る。するとドドッと列が短くなり、2回目には3列目の一番後ろに座れた。わくわくしながら待っていると、アタシたちの右に座った3人のグループに「あれ、谷川で会いませんでしたっけ」と挨拶される。そういえば会ったような会わないような…。なんでも、地元出身の奥さんと旦那さんが久しぶりに里帰りして、奥さんのお母さんと3人でうどんめぐりしているとのこと。「東京からですか?」と聞かれたので、「ええ、そうなんですよ。8時台の全日空の便で来ました」と答えると、若い奥さんの方から「ひょっとして、お名前はMさんですか?」と驚くような言葉が発せられる。

なんでオイラの名前を知っているんだ!おいらいつの間に有名になったんかとビビリつつ「ど、どーしてご存知なんですか?!」と尋ねると「谷川で全日空の半券が落ちていたんですよ。『いやー、このMさんとかいうの、私たちより早く東京出て、もう谷川きてるわ』とかすごいなと思ったんですよぉ」とのこと。情けない…。四国まで来て、落し物している。念のために帰りの航空券を確かめるとちゃんとあったが、ホント情けない。ということで、互いに記念撮影(なんでじゃ)。そうこうしているうちに、2回目の呼び出しで中に入れた。
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テーブルと座敷合わせて50席近くある大きな店だ。店内ではまず注文をメモ用紙に書かされる。具体的には「ひやあつ小、あつあつ小 M」という具合。後で「Mさーん」とか呼ばれ「はーい」と答えると注文の品が届く。席につくと、入り口近くに天ぷら類がならべてあるが気にかかる。つい、うまそうだなと思って、名高いゲソ天を小皿とってしまう。おろしがねで生姜をすって、醤油をかけて食べる。よくあるパサパサの衣ではないのが珍しい。それにしてもデカイ。長さは優に20cmはある。それが100円。比べちゃわるいが、東京のセルフのゲソ天なんか、この半分もないところがほとんどだ。あとで運転手Sさんに聞くと「さぬきの中でも宮武のげそ天は大きい。なかむらと比べても大きかったでしょ」とのこと。
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開放的というか納屋的な厨房の中では白い野球帽にオヤジ系ロンTを着たローカルなオヤジさんたちが楽しそうにせっせと麺を打っている。いいなぁ。「もちっと明るくハキハキせんと、お客さん逃げちまうで」とかおばさん連中をからかいながら。しかし、客が逃げるわけはない。ゲソ天を食べている時に気づいたのだが、店の外に座って待っている人たちは、ピラニアのような目つきで「まだかまだか」と店内にらんでいる。対面に座ったロマンスグレーっぽいうどんめぐりのカップルの奥さんが「ちょっと怖いわ」と笑う。
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天ぷらを食べ終わってしばらくすると、うどんが運ばれてきた。さっそく「ひやあつ」をすすると、麺に勢いをが感じる。この旅で思ったのだが、東京の「本格讃岐うどん」の店はコシが強すぎる。山越も谷川もなかむらも意外なほど固くはなかった。しかし、ここの宮武の面は、その中でももっともコシがあり重量感がある。ちょっとウェーブのかかった縮れた麺は口の中で暴れる印象。でも、グルテンの限界を超えちゃっているようなバカ固さはない。そして、うまい。すぐにアタマに浮かんだのは「宮武をリファレンスにして、これからうどんを喰っていこう」ということ。イリコの効いたさっぱりとしたダシも最高。途中で交換した「あつあつ」もいい感じ。

かけは230円で2人とも絶品といわれるゲソ天110円を食べたから、680円とはじめて500円を超える。分類的には一般店だから仕方ないが、しかし、それでも2人で680円。この値段で、あの麺、あのダシ、あのゲソ天を味わえるなんて、讃岐はグルメの最後のサンクチュアリだと改めて思った。帰りの機中で愚妹は山越が一番だと言ったが、アタシはここが一番。
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