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July 29, 2004

『攻撃計画』ボブ・ウッドワード

 原本では「面白いよ」といわれたエピローグの部分しか読んでいなかったが、翻訳が素早く出たのでさっそく読んでみた。おりしも、民主党大会が開かれているが、ボブ"ウォーターゲイト"ウッドワードのホワイトハウス・サーガともいうべきシリーズの次作の主人公がケリーになるのか、それともジュニアのままなのか。楽しみだ。

 さて、本書は膨大であり、テーマごとに箇条書き風に書いた方が、内容を伝えやすいと思う。後で足していくかもしれない。

【安定化期間】 当初、イラク戦争は90-45-90の225日間で決着をつける予定だったが、最終的にイラク軍が「溶けて」しまったので、わずか2週間ちょっとで終了した。そうなると、いまとなっては占領後の安定化期間をどの程度、考えていたのか、という問題の方が興味あるが、フランクス司令官は「イラク国内の情勢しだいですが、戦闘終了から十八ヵ月後には縮小できるものと思います」(p.193)と語っていたという。この情報は、初めて知ったので新鮮。

【大量破壊兵器の問題】 6月3日に辞任したCIAのテネット長官だが、大量破壊兵器があるかどうかについて、あるに決まっている、その確率は「スラムダンクのように確実だ」と請け負ったのが響いたんだろうな、と思う。

【内通者もとろも巡航ミサイルで吹っ飛ばす手法は怖い】 開戦当初、フセイン父子が隠れて集まったドーラ農場を察知し、現地でリクルートした内通者もろとも数十発の巡航ミサイルとバンカーバスターによって、この農場は破壊されたのだが、もしこの攻撃が成功して、ほとんど戦うことなく無血入城のような形になっていたとすれば、その後のテネット長官の扱いは難しくなっていたろうと思う。それにしても、ボブ・ウッドワードは深く書いていないが、刻々と「いまフセインが到着した」などと情報を衛星経由で送っていた内通者もろとも吹っ飛ばすとは…。今後、こんな役割をやろうという人間はゼロになるな(p.517)。

【日本はカヤの外】 エピローグの部分に小泉首相が登場するもんだから(しかも、いつかイラクの指導者もパールハーバーを起こした日本の首相が今では親しいようにアメリカ大統領と親しくなれる日がくる、みたいなことを言われるだけ)、もうちょっと触れられているんかな、と思ったけど、事実上、この本では日本のプレゼンスはゼロ。日本によるパールハーバーとか、第二次世界大戦中の日本とドイツの占領政策では国防省がうんぬんみたいな形で合計4回出てくるだけ。少なくとも、この本で見る限りは「素晴らしい日米同盟だなぁ」「この日米同盟というのは小泉政権の幻?」と笑ってしまった。

【チェイニー、ラムズフェルドvsパウエル】 チェイニーは最初から最後まで、パパブッシュの国防長官として取り逃がしたフセインを叩きのめすことしか考えていない偏執狂のように描かれている。ラムズフェルドは豪快さと危うさが混じったような、複雑だが魅力的な印象。この二人を支えるネオコンを中心としたグループをパウエル国務長官は「秘密警察本部(ゲシュタポハウス)」(p.379)と呼んでいるというのは生々しい。そして、チェイニーとウォルフォウィッツは、最後まで国連で頑張ったパウエルを「世論調査の支持率で動く人間で、人気があるのが自慢で仕方ないのだ、とこきおろした」(p.532)という。ブッシュ政権の亀裂は深刻のようだが、ブッシュ本人は親方気質なので「船から勝手に飛び降りるな」(p.568)ということらしい。

【情報戦】 この本のもうひとりの主人公といってもいいのがティムと呼ばれるCIAの人間だ。トルコ経由でクルド人占領地域に侵入し、イラク人からローマ法王のように慕われている親子3人をリクルートして、数千万ドルをバラ巻き(100ドル札ばっかりだったので、クルド人占領地域では超インフレでコーヒー1杯が100ドルになってしまったらしい)、イラク国軍エリートに衛星電話をバラ巻き、ドーラ農場の情報をキャッチすることで開戦を早めて、巡航ミサイルをブチ込んだのだから。

【マーケティング】 戦争にもマーケティングの手法が使われる。もちろん。そして情報を出すのにも時期がある。例えば「マーケティング的に言えば、八月は新製品を発表しない月なんだ」(p.225)みたいな。
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Comments

【情報戦】の部分
×超インフラ
○超インフレ
というtypoではないでしょうか?

Posted by: 匿名希望 | August 01, 2004 at 04:21 PM

ご指摘感謝です。直しておきました。

ティムが活躍するクルド人支配地区での情報戦は、この本のハイライトのひとつです。なにせ、アジズ副首相が使用していた、特殊保安庁の通信網も利用できる携帯通信機器さえ手に入ったのですから。これによって、特殊保安庁の通信も傍受できるようになったというのは、イラク政府のモラルがそこまで低下していたという証左だと思いました(p.394)。

思い出すのは『不肖・宮嶋inイラク 死んでもないのに、カメラを離してしまいました。』宮嶋茂樹です。「次のイラクの指導者になる奴に、私は同情する」として、略奪しまくり、図書館までに放火した市民を「やっていることはタリバン以下である。そんなことをやったのはヒトラー以来である」「人間の盾ならぬ、人間のクズの寄せ集めの国だったのである」と看破していましたから。

それから100ドル札ばかりが出回ってスレイマニアで超インフレ現象が起きたというのはp.393に書かれていました。結局、指導者たちは「1ドル、5ドル、10ドル札」での支払いを求めるようになり、そのために何回もトルコからの危険な山越えをしなくてはならなくなるのです。

にしても、湾岸戦争のときに、ヘリコプターの飛行も禁止していたら、フセイン政権はクルド人やシーア派たちを押さえつけることができなかったハズだ、とウォルフォウィッツが悔しがるのですが(p.530)、次に湾岸戦争のようなことをやった国に対して攻撃する場合は、ある程度、押さえつけたあと、ヘリコプターも飛行禁止にして、反政府勢力に倒させる方法をとるんじゃないかと思いました。

Posted by: pata | August 01, 2004 at 09:05 PM

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