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June 18, 2004

『トゥルー・ストーリーズ』

『トゥルー・ストーリーズ』ポール・オースター、柴田元幸訳

 オースター自らが目次を編んだエッセイ集だが、日本だけの出版。柴田さんとの友情が感じられる。

 オースター自らが考えた最初のタイトルの候補「真実をめぐる冒険」(Experiments in Truth)が実に内容をあらわしている。オースターは『ナイン・インタビューズ』の中でも触れられているように「世界は偶然に満ちている」を持論にしているが、「なぜ書くのか」「その日暮らし」に描かれたオースターの幼年期、少年期、学生時代、とてつもない貧乏を経験した世に出る前のフランス語の翻訳者兼詩人時代のいずれもが偶然という色鮮やかな出来事によってアクセントがつけられる。うまくは書けないが、市井に生きる人たちとって、偶然とは生活を華やかにしてくれるスパイスみたいなものなんだろう、と思う。

 これらは"The Red Notebook"という章に収められているが、これはあきらかに『シティ・オブ・グラス』の主人公がつけていた探偵日記からきていると思う。自分は毎日の出来事をノートに書き綴ってきたんだ、という意味なのかな。

 コロンビア大学時代のパリ留学体験やその後のパリでの生活は、どことなく「パリのアメリカ人」という違和感が感じられていい。映画プロデューサーに雇われて、1日で300ドルという超有利なアルバイトで脚本の要約をつくるところとか、それが縁で有利な書き物の仕事がどんどんくるようになってきたけど、最後にはあまりにもうさん臭い話に半ば強制的に乗らされて、それっきりになるところなど、自伝小説のような味わいがある。と同時に、オースターの映画好き、あるいは『ルル・オン・ザ・ブリッジ』で頂点に達する映画に対するリベンジというのは、こういうところから来ているのかとも思った。

 一番好きなのは、生活に行き詰ったオースーターが考案した「アクション・ベースホール」というカードゲームを売ろうと孤軍奮闘を繰り広げる話。おそらくは最初の結婚もここらあたりで破綻を迎えたんだろうし、名刺も持たずにゲームショーに繰り出して、海千山千の業界人相手に売り込もうとする場面は悲痛。「人間行き詰ると、こんなのにもすがってしまうんだな」みたいな。

 あとはアート専門の書店につとめていた頃、ジョン・レノンがマン・レイの写真集を見せてほしいと現れて、オースターと

「ハイ」と彼は片手をつき出しながら言った「僕はジョン」
「ハイ」と私はその手を握って大きく振りながら言った。「僕はポール」

と挨拶する場面はよかったな。同時にせっかくの美術品を何重にも梱包して(手で触れてもらいたいという趣旨でつくられた本でさえも)並べられているのを見ながら、ジョンが「なんかずいぶん手間がかかっているみたいだねぇ」とつぶやき、オースターと一瞬のうちに分かり合う場面もいい感じ(p.164)。
true_stories.jpg

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