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May 12, 2004

『キャパ その死』

『キャパ その死』リチャード・ウィーラン、沢木耕太郎 (訳)

 3巻目の今回は文庫版のために書下ろした「原注、訳注、雑記」pp.216-270。1巻目の『その青春』がpp.208-270、2巻目の『その戦い』がpp.220-270となっている。なんやかんやいって、薄い文庫本一冊分ぐらいは書いているわけだ。

 本体の内容はノルマンディー上陸作戦前後の話と戦後におけるイングリッド・バーグマンとの恋、そして写真家集団「マグナム」の設立と個人的なスランプ、それからの脱出を目指した運命の日本行きと、直後のベトナムにおける死となる。

 沢木さんは有名なオマハビーチでのブレブレの写真に写っていた兵士の名前も教えくれる。エドワード・K・リーガンという兵士だ。このあたりはキャパ自身が書いた自伝『ちょっとピンポケ』でもヤマ場になるところだが、そこの訳に関する沢木さんの厳しい注文は納得いくものだった。

 キャパがどの部隊についていくかを決める場面だが「戦争特派員は自分の命というstakeを賭けることもでるきし、臆病風に吹かれて賭けずに引き返すこともできる。しかしキャパはギャンブラーなので一番危険そうなE中隊を選んだ」と訳すべきところをあいまいに訳して、まるっきり違う意味にとられかねない、と書いているところは厳しい指摘だと思った(文芸春秋の『ちょっとピンポケ』p.156-157)。

さらにこうした箇所が何ヵ所もあるとして「版元はできるだけ早いうちに訳しなおすことにした方がいい」とまで書かれると、『ちょっとピンポケ』が大好きだったぼくの立場はどうなるんだ、と。ちなみに、版元は同じ文芸春秋だから、沢木さんがここまで書くということは、そういう話が実現される方向にあるんだと思う。
capa_3.jpg

 しかし、つまらぬ翻訳をやらせてもらった経験からいえば、英語の原版もけっこういい加減な場合があるからわからないといえばわからないんだよねぇ、ともいえる。ぼくはブーレーズの「Work in Progress」という考え方が好きなのだが、結局、本も、翻訳もWork in Progressなのかもしれない。だから、10年後に、キチンと訳しなおして、立派な「原注、訳注、雑記」を書いた沢木さんは本当に偉いと思う。

 あと、まったく関係ないが、このE中隊というのは『バンド・オブ・ブラザース』で描かれたE中隊なのだろうか?とフト思った。

 キャパがフランスで撮影した有名なドイツ軍協力者として髪を丸刈りにされた女性の写真についても、認識を新たにさせてもらった。この写真に関しては、ぼくも沢木さんと同様に「町を追放された」というキャプションが印象に残っていて、赤ん坊を抱いた女性ははたして生きていけたのだろうか、と心配したものだったが、実は前後の写真を見ると、家から連れ出されて広場で丸刈りにされて、家に戻ったというのが真相らしいのだ。

 これを今回、初めて知るとともに、沢木さんの英語の師匠だった人が、この写真を初めて子供の頃に見たときには「こうされるのが当然だ」と感じていたと言っていたことも紹介されている。「この写真の持っている真の悲劇性が勝者の人々にも理解できるまでには、ある歳月が必要だったのかもしれない」(p.230)という文章は印象的だ。

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