春を感じさせるコレット『シェリ』
記憶違いかもしれないが、カーサにしている書店「六本木ABC」の文庫本お勧めコーナーには、春を感じさせる本として、毎年この本がコーナーの一角を占めているような気がする。文庫本コーナーを担当しているのはMさん。ずいぶん前だが、アンソニー・バージェスが死んでしまった時、急遽、バージェスのコーナーをつくってくれて、「こういうのいいよね」と話したのをきっかけに、コーナーに並べる本なんかに関して感想を伝えたりしている。さすがだなと思ったのがいろんな機会に『シェリ』は並べるけれども、『シェリの最後』は並べなかったりすること。安易に続編だからといって並べないというポリシーを持っている。いまではすっかり、業界でも有名になって、Mさんお勧めの文庫本という帯を版元でつけたりする。
さて、この小説は、初老ともよべる年齢にさしかかりながらまだまだ美しい元女娼レアと25歳年下の美男の愛人関係を描いた作品。レアは召し使いにかしづかれて優雅な生活を送っていて、自分の子供ほどの男の子をCheri(いとい人)と呼び、貧弱だった体をボクシングで鍛えさせるなど調教してきた。しかし、そのシェリが女性と結婚することになり、最初レアはこの結婚を祝福するが、レアはシェリに自分への情熱を再びかき立てるように仕向ける、というのがおおまかなストーリー。しかし、最後に二人はささいなことで激しい言い合いになり別れる。その場面が圧巻。圧倒される。「やだやだ」と。でも、なんとも春を感じさせてくれる不思議な作品。レアの真珠で隠す胸元の皺、ショールで隠す首筋の皺などの描写もすごい。
コレットは様々な作品を残していて、ぼくはまったく忠実ではない読者なのだが、『シェリ』は春を、『青い麦』は夏を、『シェリの最後は』秋から冬を思い出させると勝手に思っている。
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