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April 09, 2004

この時期の月

中井さんの本は面白すぎ、日曜日にゆっくり感想を書きたい。ということだが、いまの時期、酔っ払いながらフト目線を上にあげると、妙に低くて真ん丸い月に出くわすことがある。歩いている道のつくりによっては、見事に、正面に満月が出ていたりしてハッとする。桜のほかにも白い花を咲かせている木々がいっぱいあって、それらが薄暮の中で浮かんでいるのを見るとはなしに眺めていると、まったく違った環境ながら、この季節の月が、ヒトをある種の記憶にさそうことがあるのか、と思う。

ユダヤ神話では、この季節を舞台にふたつの重要な物語が遺されている。ひとつは出エジプト記、もうひとつはイエスの受難劇だ。砂漠のエルサレムと高温多湿の日本ではあまりにも違うかもしれないと思うかもしれないが、エルサレムを旅した方から聞いた話によると、この時期(すなわちユダヤ教徒にとっての過越祭、キリスト教徒にとっての復活祭)のエルサレムは「満月に熱帯の花が咲き誇り、ムッとするような香りが漂う、それはハデな季節」だそうだ。

岩波文庫から出ている塚本訳の福音書のヨハネで、好きなところがある。それは13:30。教会で信者さんたちが読むような新共同訳では「ユダはパン切れを受け取ると、すぐ出て行った。夜であった」とアッサリ訳しているが、塚本訳はこう敷衍している。

塚本訳 ユダはパンをたべると、すぐ出ていった。夜であった。-そとには丸い月がかがやいていたが、ユダの心は真暗であった。

「そとには丸い月がかがやいていたが、ユダの心は真暗であった」が敷延している部分。敷延の極北のような訳で、ぼくは、ヨハ13:30をこれからも、ずっと塚本訳で覚えていくと思う。まさに一度読んだから忘れられない訳だと思う。

この時期の共通の記憶というものがあったとしたら、モーセもイエスもユダもペトロも同じような満月を見ていたと作者たちが書きたかったのは、とてもよく理解できる。そして、日本でも彼岸は近い。この時期、洋の東西を問わず、何かを思い出させるのかもしれない。

「死者が生者から生じるのと同じように、生者は死者から生じるのである、と。こういう事情であれば、それは、死者たちの魂が必ずどこかに存在していて、そこから再び生まれてくるはずだ、ということの充分な証明になる、と先ほどわれわれは考えたね」「生き返るということも、生者が死者から生まれるということも、死者たちの魂が存在するというも、本当に有りうることなのだ」
(『パイドン 魂の不死について』プラトン、岩波文庫、p52-54をアレンジ)

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