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April 24, 2004

『幻のスーパーカー』

『幻のスーパーカー』福野礼一郎、双葉文庫
自慢ではないが、これまで一台もクルマを所有したことがない。大学生になって初めてやったことのひとつは運転免許をとることだったが、横に乗せたいと思っていた子が夏休み前にはいなくなってしまったし、バイトで稼ぐには広尾の駐車場は高すぎた。以来、ほぼずっとペーパードライバーでありつづけたが、一度だけ、クルマを買おうとしたことがある。それは会社の給料をほとんど財形貯蓄にまわしてもアル原の原稿料がありあまっていたバブル全盛の頃だ。

 その頃、会社は飯倉片町の近くにあって、毎日、ミツワモーターのショールームを眺めながら通っていたのだが、日差しのキツかった夏の日ふと「ポルシェでも買うか」と思い立ち、ショールームに入ったことがある。どうやってクルマを買うかなんてわからなかったので(後にも先にもディーラーのショールームなんかに「買おう」と思って入ったことなんかなかった)、とりあえず店員さんに「あのー、911ターボっていくらぐらいするんですか?」と聞いてみた。

 というのも、そのころ911がなぜかショールームにおいてなかったからだ。いかにも軽薄そうな店員は、ぼくの格好をなめまわすようにみてから「911なんか3年ぐらい待たないと買えないよ。928なら一台あるけど?」とつまらなそうに答えたのが気にさわり、「また、きます」と言ったきり、二度とこの手のショールームには足を踏み入れたことはない。そう、その頃、ハブル全盛の日本から注文が殺到し、ポルシェは生産が追いつかなかったのだ。

 これからも「人生はフェラーリか、トースターか」で悩むことはないだろうし(もちろんぼくはトースター派)、よほどカネがありあまる状況にならない限りクルマを持つことはないだろうと思うけど、昨日、友達からメールで「最近、福野礼一郎の本にハマってる。読んでみたら」というメールがきて、『ホメずにいられない』双葉文庫が推薦されてきた。すると、メーリングリストに入っているもう一人の友人が「なかなか面白い。『クルマはかくして作られる』とか最高」といってきたので、さっそく帰りに読んでみた。

 推薦された『ホメずにいられない』は置いてなかったので、『幻のスーパーカー』(双葉文庫)を読んだのだが、なかなかいいじゃないっすか。これからも、この人の本、見かけたら買っておこうと思う。

 知らないのはアタシだけなのかもしれないけど、エンツォ・フェラーリはレースしか興味がなくて、投下資本を回収するためだけに、1年前のグランプリカーを中古販売することを思いつき、それにヨーロッパのカネ持ちどもが群がったけど、エンツォ自身は「公道で人に見せびらかすためにフェラーリを買いに来るような顧客たちを徹底的に軽蔑し」「公道を走りたければフィアットに乗るがいいと公言し、自らもランチアの乗用車を運転していた」(p.18)として、ストラダーレ部門をフィアットに売却してせいせいしたという。

 また、ポルシェがフォルクスワーゲンを開発したポルシェ博士の子供によって設立され、戦犯で収容されていた父の設計料が自分のでっちあげた研究所に入ってくるのをいいことにレーシングカーをつくり始めたというのも知らなかった。さらには、ランボルギーニはカーマニアのトラクター製造会社の社長が趣味でつくり始めたもので、絶対にレースには出ないことを前提にしていたとか、デ・トマソがチェ・ゲバラを親友に持ち、父はアルゼンチンで社会党首相にまでなった人だというのも知らなかった(pp.147-150)。

とにかく、まったく興味のない分野だったので、どんどん無駄な知識は蓄積されるのだけれど、たぶんこの人の多くの読者と決定的に違うな、と思ったのが、この部分。

 「カウンタックに乗ると、どんなだろう。誰もが一度は想像する」(p.221)。

 そうなのか、と思った。「ふーん」みたいな。悲しいことに、ぼくはそんな想像したことがないのだ。

 しかし、世の中にはランボルギーニに魅せられて、日本に「いる」クルマをすべて把握しているような高校の先生がいるのは理解できるし(p.280以下の「ランボルギーニ先生」)、マクラーレンF1の加速の素晴らしさと恐ろしさを描いた部分は、さすがに長年ライターとして生き残ってきた力量を感じる(p.305-312)。物理の法則から切っていくという姿勢も、どれほどのものかは一冊では判断できないが、中立的なものだろうと思う。
 
 そして、もしポルシェを買うときにはw、しっかりアラインメント(p.203-204)をしようと思って本を閉じた。

しっかし、ヨーロッパの人たちはクルマが好きだね。メルロー=ポンティは赤いスポーツカーに乗って事故死してしまったが、乗っていたのはどんなクルマだったんだろう。

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