『ジーコの考えるサッカー』
『ジーコの考えるサッカー―ゲームに生かせる実践Q&A』ジーコ、NHK出版
ジーコが少年サッカーや高校生(なぜか灘高とかも入っている)の選手、それに指導者たちから寄せられた疑問、質問に対して、答えるというスタイルで122のQ&Aが収録されている。昨日、久々に大型書店でみかけたら、2002年12月5日の17刷というのがあった。ぼくが持っているのは重版だけど、初版は94年3月25日。とにかく、すごいロングセラーだ。サッカー関連書籍で、17刷というのはあまりお目にかかったことがない。少年サッカーの指導者たちなんかにバイブルとして使われているんだと思う。エディトリアルも含めてカネがかかっているなというのがひと目でわかる素晴らしいつくりの本だと思う。あらためてこの本の価値を見直して、知り合いのサッカー少年へのプレゼントとして1冊買ってしまった。
読後感が素晴らしいのは、質問している人間が現役のサッカー少年、高校サッカーの選手たちなので、的外れな質問がないこと。実際のプレーしている中での疑問、ぶつかった壁について、真摯に質問している。「壁パスのタイミングがはかれません」「タイトなマークをされたとき、まったく動けなくなります」「重要な試合前、キャプテンはチームに対してどのような仕事をすればいいのでしょうか」「夏場など食欲が落ちたときに、どうやって体調を維持しますか?」など、実践そのものの内容だ。
間違ってもネットのサッカー論議で主流になっている戦術や組織なんかに関する観念的な質問などない(観念的な話はとめどもなく流れていき、どんどん現実からかけ離れていくということを彼らは知らないのだろうか?)。
その答えもまた、見事だ。シュートの際、GKの位置が見えないという質問に対し、キーパーの位置などはまったく問題にならない、と断言し「ゴールの隅をねらう」ことだけに集中すべきだ、という。考えてみれば当たり前のことで、GKはボールの位置によって、どこにいればもっともゴールマウスを遮蔽することができるかということを訓練されているわけだから、とにかく需要なのはコントロールされたシュートなのだ(p.64)。
ファイティングスピリットの意味に関しても「試合、練習に関係なく、自分の行動に責任を持つこと。次にその行動がけっして間違っていないと責任をもつこと」という見事な答えを用意してくれる(p.54)。
その答えは基本通りかもしれない。しかし、3分冊のLevel2で小山道雄さんが書いているように「ジーコは彼の長い現役生活を通して、その『基本としてあるべきことがら』を実践してきた。だらかこそ、彼、ジーコは偉大なんだ、と私は思っている」(p.185)ということなんだとぼくも思う。
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